12 ソウルコントロール
「それじゃあユウイチ君に実際にソウルの効果を試してもらおうか。
ソウルを使用して得られる効果は流した部分の強化。スキルでの強化ほどは強化はされないけど、まあ物は試し、今回はデコピンで教えてあげよう」
そう言うとミチルさんは人差し指を折り曲げデコピンの形を作る。
「まずはノーマル」
人差し指が放たれ俺のおでこにペチッと音を立ててヒットする。
……特段、痛みは感じないな。普通のデコピンだ。
すると「なんとも無いな」と言う顔をしている俺を見てミチルさんはより一層、闇深く笑う。
なんだかものすごーく嫌な予感がする。
「そじゃあ次はソウルで強化した場合♪」
なんかめっちゃ嬉しそう。
「……そんなに痛く無いですよね?」
俺はおずおずと「痛くないのか?」と確認する。
「それはどうだろうねー」
「え?!」
「えいっ!」
瞬間、俺は体ごと吹っ飛ばされる。吹っ飛ばされた体はそのまま転がって行き道具の点検をしていたハヤトさんに激突する。
「どうしましたかユウイチ君?」
激突されても微動だにしなかったハヤトさんはなんとも無さそうにだが強烈なデコピンを食らった俺は、
「い、痛ぇえええええええええええ!!」
「にゃはははははははは!!」
額を抑えて転げ回る俺を見てミチルさんは腹を抱えて盛大に笑う。
「ヤバイ、死ぬ! 頭蓋骨くだけたぁああああああ!」
俺は頭を銃弾で撃ち抜かれたような痛みをしばらく味う事になった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ごめんねーユウイチ君、少々やりすぎちゃった」
数分後、体操座りで少し腫れた額を抑えながらミチルさんの謝罪を受けていた。
それにしても本当に痛かった。
「別に怒ってませんよ」
「その割には全力でそっぽ向くね……でもこれでソウルの凄さを分かってくれたかな?」
「それはもうしっかりと」
デコピンでこの威力。きっと蹴り、打撃の行為にソウルを乗せると凄まじい威力を発揮するだろう。
「これってどのくらいで習得出来るんですか?」
俺はミチルさんに向き直って聞く。
「ソウルで強化するのは……ウチで二ヶ月くらいかかったね」
「結構かかりますね」
「まあ、日常では使わない力を使うんだからね時間はかかるよ。まず自身のソウルを感じるのが大変だったね。感じる事が出来るまで毎日、座禅だったよ」
「あれは辛かったなー」と言いながらミチルさんは頰をかいて苦笑いしている。
「と言う事でユウイチ君! 今日から早速、ソウルの習得にかかるよ」
「オッス!」
俺は空手のようなノリで返事をする。
「この力を手に入れれば少しは変わる」と思いやる気を漲らせる。
「うんうん! とってもいい返事だ。それじゃあ三時間の座禅から!」
「さ、三時間?!」
「言ったでしょ? 座禅がきついって。まあ、これが嫌で諦める人も結構いるらしいけどね。ユウイチ君はどうかな?」
そう言うとミチルさんは試すよう笑い、下から顔を覗き込んでくる。
「んぬぬぬぬぅ。分かりました、やってやります! やってやりましょうとも! 俺の夢はプロフェッショナルでこの名を轟かせる事! このくらい楽勝ですよ!」
「その粋だユウイチ君!」
俺はほぼヤケクソで地面にあぐらをかいて座る。するとミチルさんも俺の正面に座ってあぐらをかく。
不意に視線を落とすとズボンの隙間から白い健康的な足が見えてしまった。
白くて柔らかそうな……。
「それじゃあ始めようか」
「は、はい! すみませんでした!」
「なんで謝るの?」
あ、危なかったー。バレてたらもう一発デコピン食らってたな。
今は腫れが引いたおでこに流れた汗を拭う。
「では、目を閉じて」
そう言うとミチルさんは栗色の瞳を軽く閉じ、俺もミチルさんと同じように軽く瞳を閉じ視界から色を消す。
……心地よい。
通りすぎる風は頰を軽く撫ぜ、火にくべた薪がパチパチと音を立てて燃えているのが分かる。
もう少し耳を澄ますと虫や生き物の鳴き声、風になびかれ木々や草のざわめきが聞こえる。
「……良い集中だよユウイチ君」
すると正面から囁くような声でミチルさんが話しかけてくる。
「瞑想して分かるかな? 君を取り巻く生命の多さを。草、木、鳥、獣、虫、ありとあらゆるものが存在し、そういう世界にユウイチ君も存在している」
「……」
「そして、それら全ての生命がソウルを持っている」
「全てが……」
「そう全て。じゃあソウルとは一体何だろう?」
パチッと音を立てた火がより一層燃え上がったのを熱で感じる。
「ある人は生命の源と言った」
少し強い風が髪を揺らし通り抜けて行く。
「ある人は人類の可能性と言った」
のしかかる夜の冷気を肌で感じる。
「ある人は感情から生まれる力と言った」
そうして言葉を区切ると俺とミチルさんの間に一時の静寂が生まれる。
ハヤトさんは荷物の点検が終わるとどこかに行ってしまったし、ケイヤさんは深夜の見張りのため早めに寝てしまった。
故に今ここで意識があるのは俺とミチルさんだけだ。
すると再びミチルさんが緩やかに話始める。
「人それぞれによって感じ方、考え方は別々で同じである事はほとんどない。
でも、「ソウルはどこから生まれるか?」と聞いたとき人は口を揃えて言う」
するとさっきとは打って変わりはっきりとした声でこう言った。
「「ソウルは内側から満ち溢れている」と」
「内側……」
「そう、つまりソウルとは自身の中……自身の奥底にさらに眠っている力なんだよ。それを手取り早く感じ、引き出す為の練習がこの瞑想ってわけ。
それじゃあ、意識を外側から自分の内側に持って行ってごらん。最初は何も感じなくていい、やっているといつか内側にある力に気づく日がくるよ」
そう言い終えるとミチルさんは今度こそ深い瞑想に入ったのか何も喋らなくなった。
それじゃあ、言われた通り意識を内側に。
……感じるのは自分の鼓動、呼吸、血の流れ。自分が生きていると言う事を実感する。
だけど、ここじゃないと思う。おそらくソウルはもっと奥深く……。
そうすると俺は時を忘れて自分の奥深くに沈んでいく……そんな感覚にとらわれた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うぅん、よく寝た」
深夜の見張りの為に眠っていたケイヤが背伸びをしながら目を覚ます。
すでに日は完全に落ちて世界は闇に染まり薄い雲の間から朧げに輝く月が世界を照らしている。
ケイヤが起き上がり辺りを見渡すと座禅を組む二人の姿が見えた。
一人は桃色の髪をそよ風に揺らす小柄な美少女、「朝焼けの団」の狙撃手であるミチル。そしてもう一人は、
「どうだ、ユウイチのソウル習得の特訓は?」
すると、ケイヤから特訓の進展を聞かれたミチルは目を静かに開き優しく微笑みながら言った。
「……正直言って想像の遥か上を行ってるよ。もう自分の意識の「中層」に入りかけてるかもね」
ソウル習得の訓練の一つ、瞑想においてその進展具合を「上層」、「中層」、「下層」、「深層」の四つの段階で表すことが出来る。
そして始めて瞑想をし、「中層」の域にたどり着いたという事はユウイチのソウル習得速度が異常である事を表していた。
「マジか、うちで一番早くソウルを習得したお前の「二ヶ月」の遥か上を行くんじゃないか?」
ミチルがソウルを習得した「二ヶ月」という早さは決して遅い訳ではない。
むしろ平均よりも早い方である。ケイヤに至っては四ヶ月くらいかかってしまったくらいこの瞑想の訓練は忍耐力と集中力が必要なのだ。
その事を知っているケイヤは「信じられん」と言った表情を黒髪の瞳を閉じた後輩に向ける。
「…………」
「確かにこりゃ「中層」の段階に達してるな、全く恐ろしいやつだ」
自分の目で事実を確認したケイヤは「こりゃ実戦で一緒に戦う日はすぐそこかな?」と密かに呟いた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…………」
深い、深い、深い。
初めて自分の意識の奥底に向けて見た。するとそこには広大な世界が広がっていた。口では言い表せないような自分の意識の広さ、そして可能性。
きっとこの広大な世界のもっと奥深くに俺の探すものがあるだろう。
なら、もっと遠くに、奥に、深淵に……
「ユウイチ君」
「!」
肩を叩かれ自分の奥深くを彷徨っていた意識が現実に引き戻される。
瞑っていた瞳を開けるとそこにはにこやかに笑うミチルさんと感心したような顔をするケイヤさんが立っていた。
「ユウイチお前凄いな、三時間どころか五時間も瞑想してたぞ」
「え?! そんなにですか?」
驚きのあまり辺りを見渡す。すると日はとっくに暮れ、空には雲の隙間から星が顔を覗かせていた。
それにしても凄かった、初めて瞑想してみたけどあそこまで集中出来るものなのか。
「全く先が恐ろしいやつだな……」
なんだかケイヤさんが意味深なこと呟いてる。
「それにしてもユウイチ君、少し疲れたんじゃないかな?」
「いやそんなことわぁ……ん?」
なんだ? ミチルさんに言われて気づいたけど体がなんか重い……いや、体は重くないな精神的にどっと疲れた気がする。
「ソウル習得の瞑想は自分の奥深くを覗くからね。夜もだいぶ更けたし寝て疲れを癒すといいよ」
「じゃあ……お言葉に甘えて」
ミチルさんの言われた通りに今日はもう寝る事にした。きっと明日も今日のように歩き回ることだし疲れを残さないようにしないと。
そう決めた俺はケイヤさんから毛布をもらってひんやりとして硬い地面にねっ転がる。
見上げると沢山の星が夜空いっぱいに散らばっていた。ずっと眺めてはいたかったけど肉体的疲労と精神的疲労で俺の意識はすぐに眠りに引き込まれる。
十二話を読んでいただきありがとうございます。
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では、次話は遂に標的「巨大猪」との決闘です、力を入れて面白く書くので是非よろしくお願いします!