11 これが入り口
モトノキ南区の大通りで戦いの火蓋が切って落とされる。
「こいっ!」
ケイヤが気迫を放ったと同時、鋭い殺意を放っていた上位狼は地面を蹴った。
上位狼はその見た目によらずしなやかな筋肉を無駄なく使いあっと言う間に加速する。
目の前にいる銀色の胸当てをした人間を自身の速度と体格で倒すために。
(そのまま受ければ倒されるか……なら)
対するケイヤは落ち着いて煌めく太刀を上段に構える。
そして穏やかに口からその一言を放つ。
「風よ」
放たれた言葉にケイヤの体内にあるソウルが呼応する。
ケイヤは体内にあるソウルを握られた太刀に直接流し込み自身の太刀に纏わせた。
すると、ケイヤのソウルが自身の属性である風に変化し、太刀から薄緑の旋風が勢いよく吹き荒れだす。
「ガルアアアアアッッ!!」
ついに射程に入った上位狼は速度を落とさぬまま、己のナイフのような鋭利な爪を突き立てケイヤに飛びかかる。
加速しきった上位狼は自動車にも劣らぬ速度を出した。
「はっ!」
圧倒的な速度、質量で襲いかかる上位狼にケイヤは上段に構えた旋風の太刀を勢い良く振り下ろす。
「グルアッ?!」
上位狼の攻撃は失敗に終わる。
ケイヤは薄緑の旋風を纏った太刀から放出された爆風と共に上位狼を遥か後方に吹き飛ばした。
吹き飛ばされた上位狼はその巨体を地面に転げさせたのちにゆっくりと立ち上がる。
上位狼はこれまで今の一撃で倒せなかったものはいなかった。
故に「絶対的に押し倒せる自信」をへし折られた上位狼の瞳に怒りの色が浮かぶ。
そして、太刀を振り抜いたケイヤは再び太刀を構え直して不敵に笑う。
「【剣技】【風の型】風纏い。
俺のソウルを風に変換し、武器に纏わせて放つ最も基本的な技だ。お目にかかるのは狼生初か上位狼?」
風属性のメリット、それは近接戦闘が他の四属性に置いて雷属性と並び最も適している事。体に纏わせる事で高速に移動する事を可能にし、更に武器に纏わせる事で先ほどのように風で突き飛ばす事も可能になる。
デメリットとしては、遠距離となるとコントロールが極めて難しく威力が分散しやすい事。
一瞬の攻防を静観していたユウイチは驚きのあまり目を見開き、ミチルは「すごい! すごーい!」とはしゃぎながら手を叩く。
しかし、吹き飛ばされた上位狼は同じ方法で再び加速し突撃する。
上位狼には「逃げ」の選択肢はこれまで生きてきた中で一度も無かった。
それ故に上位狼は知らなかった。
死の恐怖を。
「また同じ突撃。全く芸のない……仕方ない、ミチル!」
ケイヤは鋭い声でミチルに合図をだす。
「了解〜、どーん!」
銃声。
合図でミチルが引き金を引いた事により、「ユンちゃん」こと、長身のライフルから銃弾が放たれた。
放たれた銃弾は寸分狂わず上位狼の左前脚を貫き、関節を粉砕する。
上位狼は前脚を撃ち抜かれ顔から地面に突っ込んだ。
何が起こったのか分からず直ぐに起き上がろうとするが不可能。
ミチルの放った銃弾が正確に脚の関節を貫いていたからだ。
不恰好に残された足をズルズルと動かす事しか出来ない。
そして上位狼は自分の体の上に影がかかったのを察知する。
目の前には太刀を握った人間がこれから処刑を行う執行人のごとく立っていた。
太刀を握った執行人は緩やかに太刀を掲げる。
「お前の敗因は死の恐怖を知らなかった事と、俺たちを襲ったことだ。あの世に行ってからもう一度やり直しな」
そう言って言葉を締めくくり高く構えられた太刀が振り下ろされ、上位狼の首を断ち切った。
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「こ、これが入り口……」
ケイヤさんが繰り広げた戦いを見て俺は圧巻させられていた。
今、目の前であった戦いが入り口と言うのか。
高い、あまりにも高すぎる。
ケイヤさんは太刀に纏った風で自分の背丈の倍ぐらいある上位狼を吹き飛ばし、ミチルさんは脚の関節を正確に撃ち抜いた。
まさに連携のとれた完封勝利だった
俺もいつかはこうなれるのだろうか?
「どうだったユウイチ? プロフェッショナルの戦闘は?」
「凄すぎて何とも言えません……」
「はははっ、そうだよな! 俺も自分の先輩の戦闘を始めて見たとき何も言えなかったしな」
何か懐かし事を思い出したのかケイヤさんは高らかに声を上げて笑う。
「ユウイチ君、ソウルを習得すればある程度の戦闘は出来るようになりますよ」
「そうそう! ソウルの基本的な効果は身体能力強化だもんね」
不安を覚えたのを見抜かれたのかハヤトさんとミチルさんに元気付けられてしまった。
そうだよな。
少しずつ、少しずつで良いから強くなろう。
「先輩方々、こうなれるよう指導よろしくお願いします!」
すると三人は顔を見合わせて
「「「任せろ!」」」
と息ピッタリで答えた。
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「んんー、今日はここまでかな。おし! 野宿の準備するぞ」
モトノキ南区の住宅地を散策中ケイヤさんが今日の探索の中断を告げた。
それにしてもこの廃都モトノキはとてつもなく広い。ケイヤさん曰く昔は日の国の大都市五本指にも入っていたらしい。
上位狼との戦闘の後、他の肉食獣に絡まれる事もあったがその全てを無傷で終えたケイヤさん達。
だが、目的の怪物、「巨大猪」を発見できず太陽が西に傾きモトノキを朱色に染め始めた。
「では、適当に寝れる場所を見つけましょう」
「ウチは食料探しー」
「朝焼けの団」のメンバーは手際良くそれぞれの作業に取り掛かる。
「寝るなら適当な家に入って寝たらどうですか」
俺はケイヤさんに軽く提案する。
正直そっちの方が手っ取り早くてすむし。
しかし、ケイヤさんは顔を横に振って拒否する。
「もう十年も人が居ないんだぞユウイチ。みんな大好きGさんやダニさんがうようよ湧いてたらどうする?」
「? Gさんとは毎日戦ってましたけど?」
「……あー、そういやお前ど田舎出身だったな。だけどすまん、ミチルがGさんを見ると取り返しがつかなくなる」
「そう言う事ですか……」
想像するだけで恐ろしいな、銃とか遠慮なく乱射してそう。
まあ、野宿でもいいか。ここはトキヨウの都会感から解き放たれた感じでいいし。
数十分後、ハヤトさんは見晴らしの良い建物の屋上を発見し、ミチルさんは野鳥を三羽仕留めて戻ってきた。ちなみに俺とケイヤさんは近くで燃えそうな木をたくさん拾った。
日が落ちかけ薄暗くなり始める中、ハヤトさんが見つけた野営場所で野宿の支度にかかる。
「炎よ」
組み立てられた木々に向かってミチルさんは右手を突き出し短く詠唱する。
すると、ミチルさんの右手から炎の球が放出され木々に着火した。
着火した木々は煌々と燃え始め辺りを明るく照らす。
「いやー何度見ても本当に凄いです。俺も属性持ちだったらなぁ」
俺はかがんで燃え上がる火を見つめる。
何度見てもこの神秘な光景には慣れないな。こんな事を出来てしまうソウルは本当に凄い。
「ウチの師匠……というか、属性だろうとスキルだろうと使う時には明確な想像が必要らしいよ」
火をつけ終えたミチルさんも俺の隣にかがんで火を見つめながら語り始める。
「まあ、ソウルを使うのにも想像が必要なんだけどね」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ。例えばこうしてーーそうだ良い事思いついたっ」
するとミチルさんはピーン! といいこと思いついたようにニッコリ笑って話を次の段階に移る。
十一話を読んでいただきありがとうございます。
今回は初めての怪物との戦闘シーンでした。
頑張って書きましたがなかなか難しいものでした。
少しでも楽しんでいただけたら嬉しい限りです。
ケイヤかっけぇ、ミチルすげぇと思った方はブックマーク登録もよろしくお願いします。
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