遥VS竜
翌日、身軽なドレスに着替えた私は髪を編み込んでまとめる。
靴もハイヒールではなく編み上げブーツだ。
念のため皮のコルセット風の鎧もつける。
「決まってるね、蒼子」
そんな遥はいつもの群青の騎士装束だ。
剣も下げているが全体的に身軽だ。
ジークは黒い鎧を着ている。
腰には銀の大剣。
どちらも王家代々伝わる神の加護がついた国宝らしく、いつにまして威厳がある。
私たちは朝食を簡単にすませると庭に出た。
「気をつけて行ってらっしゃいませ!」
最後までついていくと嘆願していた近衛隊長がジークに一礼し、「殿下を頼みます」と遥に頭を下げた。
「心配しないで下さい」
遥は頬笑む。
「いくよ」
遥が私とジークの手をとる。
次の瞬間、私たちは宝石のようなたくさんの色のキラキラした石がたくさんある谷にいた。
「もう着いたん?」
私は驚く。
「ここが水晶の谷。魔族の聖地だそうだよ。竜は光るものが好きだから住み着いたらしい」
遥が足元の石を拾い、私に渡す。
「キレイ…」
ジークも感動したようにあたりを見渡している。
「あ、竜に気づかれた。くるよ」
突風が吹く。
思わずよろめくとジークが支えてくれる。
目の前に真っ黒な巨大な竜がいた。
ルビーのような赤い目は怒りで見開かれている。
「二人はここにいて」
遥は『結界』と呟くと私とジークのまわりに薄いガラスのようなシェルターができた。
「気をつけて、遥!」
「頼む、勇者ハル!」
私たちの声援を受けて遥は片手をあげて応えると『浮遊』と唱えて竜のもとまで飛んでいく。
竜が白い炎を吐く。
周りの水晶が炭化する。
遥はスイスイとよけると剣を投げた。
竜の前足に刺さる。
竜の咆哮が響き渡る。
さらに遥は手から氷の槍を作り出し、次々と投げていく。
竜の額に刺さるやいなや、竜は断末魔の声をあげた。
そのままゆっくり倒れていく。
戦いは圧倒的であった。
遥が戻ってくる。
「大丈夫?怪我ない?」
私が遥の全身を確かめようとすると、「なんともないよ」と笑った。
「信じられない…」
ジークは興奮して少年のように目を輝かしている。「伝説を目撃した私は果報者だ」
私たちはすでに息のない竜に近づく。
(ごめんな。成仏してな)
私は手を合わせる。
遥とジークは竜の心臓石を取り出していた。
美しい紫色の宝石だ。
「これで帰ろう!日本へ」
私は笑って大きくうなずいた。