魔王の条件
「魔王に!?」
ジークが驚く。
「話つけてきた。もう王国は襲わないだって」
何もないように遥が言う。
「何か条件は?」
信じられないようにジークが遥に聞く。
「竜の討伐」
ジークが絶句する。
「魔王たちの居住地に竜がすみついて、住むところがなくなったからそれで王国を取ろうとしたんだって。だから竜いなければ問題解決」
遥がどや顔をする。
「竜か…、また難しいことを」
ジークが顔をゆがめる。
「僕一人で行くから大丈夫だよ。魔王軍も余裕だったしいけるって」
遥が何でもないように言う。
私は話についていけない。
魔王や竜のすごさも。
遥の力も。
「明日行ってくる。そしたら地球にも帰れるよ、蒼子」
遥がニッコリと私に笑いかける。
「危なくないん?」
「全然!」
ジークは「一夜で帝国を滅ぼしたとも言われる竜を相手に…。さすがは勇者と言うべきか…」とつぶやいている。
マール様は話に飽きて積み木をしている。
私はまだ不安だ。
そんな私に遥が「蒼子は何も心配しないで」と手を握る。
「心配なら明日一緒に来る?」
「行く!」
私は即答した。
「私も行きたいぞ!」
ジークも勢いよく言う。
「いいよ。明日は三人で竜討伐に行こう」
それは、ピクニックに行こう、と同じような気軽さだった。
(ちょっとこわいけど、遥心配やし。せっかく異世界やから竜見てみたいし)
そんなわけで明日は竜討伐に行くことになった。
◇◇◇
夜、眠れずハーブティーを飲んでいるとドアがノックされた。
「蒼子」
遥だ。
どうぞ、と言うとドアが開く。
「来ちゃった」
嬉しそうに笑うので、つられて笑う。
椅子をすすめると座る。
「やっと帰れるよ」
私は遥に魔王軍との戦いの様子を聞く。
想像より血なまぐさいものだった。
私が青くなっていると、遥があせる。
「僕は怪我ひとつしなかったよ」
「でも…」
そんな私を遥が抱き締める。
「蒼子は僕が守る。そのために強くなったんだ」
「三年…、長かった。ずっと会いたかったよ」
私にとってはたった三日間だったが、遥にとっては長い長い三年間だったのだ。
まだ小学生の遥。
その気持ちを考え、涙があふれる。
「泣かないで」
遥はあせって自分のシャツで私の涙を拭く。
「蒼子は泣き虫だなあ」
「うるさい」
私は上目遣いでにらむふりをした。
「かわいい、蒼子…」
遥が頬笑む。
「約束覚えてる?竜を倒したら話を聞いてね」
「うん」
遥はそっと私から離れた。
「じゃあ、戻るね」
遥が、立ち上がる。
「一緒に寝ーへんの?」
私が訪ねると遥は笑った。
「もう子供じゃないし。顔が見たかっただけだよ」
遥は「おやすみ」と言うと帰っていった。
(なんだか遥は一気に大人になったなあ)
私は思いながら、遥に抱きしめられたときの硬い胸板を思いだし赤くなった。