修行のあと
遥が精神と時の部屋に行ってから早三日。
私はジークの婚約者であるマール様のお世話に忙しく、動き回っていた。
「ソウコ…、あしょんで」
マール様は公爵家の長女で三歳。
はじめはジークの婚約者というから、妙齢の女性を想像していたが、ふたをあけたら幼女だった。
(ジークとの年の差15歳か…、下手したら娘やね)
私は愛らしいマール様と遊びながら一人ごちる。
「つぎはごほんを…よみなしゃーい!」
私は何冊も絵本を読む。
「もういっかい!」
口がカラカラになった頃、クククと笑い声が聞こえた。
「マール、そのへんにしておけ」
「ジークしゃま!」
マール様がジークに抱き上げられる。
「ご苦労だったな、ソウコ」
「いえ、マール様はかわいらしいですし。私も気がまぎれてよいです」
私は水を飲みながら微笑んだ。
「もうすぐ帰ってくるな」
遥のことだ。
「北の辺境伯から、魔王軍が南下していると報告がきた。間に合えばよいが…」
ジークはよく見れば目の下にうっすらくまがあり、疲労が見える。
状況は私が思うより悪いのだろうか。
私は何も言えず黙った。
そして、ジークに近より手をそっと握った。
(元気だして)
「ソウコ…」
私たちは見つめあう。
その時、近侍が近づいてきた。
「勇者ハルがご帰還されました!」
私たちは遥の待つ部屋に急いだ。
そこには私が知るより少し大人びた遥がいた。
「ただいま、蒼子」
満面の笑みの遥は私を見るなり抱きしめた。
以前は私のほうが高かった身長が抜かされて、頭ひとつ高い。
「大きなったなあ!」
私は間抜けな感想を言ってからあわてて
「お帰り、遥。お疲れ様」
と続けた。
「蒼子に会いたかった…!」
「感動の再会中、無粋で申し訳ないが…」
ジークが話しかける。
「勇者ハル、すぐに北に向かってくれないか?」
「わかった」
瞬間、ハルの姿が消えた。
私はびっくりして腰を抜かした。
後ろからジークが支えてくれる。
「転移魔法だ。私もはじめて見た」
ジークの瞳が輝いている。
「これでわが王国は救われた…!」
それから半日後、遥が北の魔王軍を壊滅させたという連絡がきた。
「ただいま」
遥が城に戻ってきた。
「魔王に会った」