実技試験
私は窓を開けて深呼吸した。
今日は快晴。
あれ、太陽が2つある。
ピンクとオレンジの…。
さすが異世界…。
「ソウコ様」
ドアのノックとともにメイドさんたちがやってくる。
私はあれよあれよという間に飾り立てられる。
「蒼子様のお髪はとても綺麗ですね。ハーフアップにしておろしましょう」
「肌もきめ細かくてつるつる。うらやましいですわ」
「ウエストが細くてらっしゃるのね。お胸は…」
私は胸がナインなので詰め物をされる。
悲しい…。
だが、仕上がった私は我ながら美しいと思える出来だった。
「蒼子」
いつの間にか遥がいた。
「綺麗!すごいね、写メとっていい?」
遥はスマホをかざした。
何枚か撮られる。
そんな遥もかっちりした騎士装束でりりしい。
色白なので群青の服がよく似合う。
「遥こそかっこいいよ」
遥は少し照れる。
「ジークに呼ばれたんだ。一緒にいこ」
遥に手をひかれ、私は食堂にきた。
すでにジークが座っている。
「おはよう、よく眠れたか?」
さわやかに笑いかけてくる。
朝からまぶしい美貌である。
私たちが席に着くとスープとパンが運ばれてきた。
お腹がすいていたので口に運ぶ。
…おいしい!
私の様子に
「口にあったか?ソウコは素直だな。好ましい」
とジークが笑う。
それを遥がじろりとにらむ。
「そう牽制するな。私には婚約者がいる」
ジークは微笑んで紅茶を飲む。
「それより、このあとは勇者ハルの力を見せてもらうぞ」
「なにすればいいの?」
遥は興味なさそうにスープをすすっている。
「格闘の実技と魔法の鑑定だ。食事が終わり次第案内する」
ジークは指を組むと祈るような形で顎の下においた。
「ソウコも鑑定してもらうか?」
私はうなずいた。
私も何かしたい!
力がもしあれば遥の力になりたい。
「よし、では庭に行こう」
ジークに連れられ、私たちは王宮の庭にきた。
広い。
甲子園くらいありそう。
「勇者ハル、ここに手をあてて」
ジークは丸い水晶を出した。水晶がすさまじい光を出す。
「これは予想以上の魔力ですな。五大エレメンツもある」
まわりにいたお付きの騎士が言う。
「ハル、『炎』と言ってみろ。あの的に放て」
ジークの言葉に遥はうなずく。
『炎』
一瞬にして的が消し炭になった。
私は威力にぞっとする。
「風、水、土、光の魔法もできるか?」
遥はやってみる。
風で的を倒し、土を掘ってから水で池を作った。
「光はよくわからないや」
「光は治癒だ」
あとで試そう、と、ジークが言う。
「ソウコは?」
私も手をあてるが水晶はぴくりとも変わらない。
私はがっかりした。
「普通はそんなものだよ」
ジークが苦笑する。
「では格闘の実技をするか。私が相手をしよう」
ジークは剣を抜いた。
自分の腕を少し切る。
ぽとり、と血が垂れる。
真剣!
刃がつぶされたなまくらではなかった。
「ハル、治してくれないか」
遥が『治癒』を唱えると傷は消えた。
「ありがとう、さあ手加減無用だ」
遥も剣を抜く。
一刀、二刀打ち合う。
早くて私には目がおいつかない。
(遥、剣なんて使ったことないのに。これが勇者なの?)
と、ジークの剣が飛ばされた。
「私の敗けだ。一応、国では五指に入るのだがな」
くやしそうだが、嬉しそうにも言う。
「これなら今から魔王ってやつ、倒せる?」
遥がたずねる。
「いや、まだ足りないだろう。明日から三日精神と時の部屋に入って修行してもらう。勇者だけが入れる特別な場所だ。こちらの一日がその部屋では一年になる。」
「僕三歳年とるね。わかった」
遥はうなずいた。
「私は入れませんか?」
遥が心配で思いきって聞いてみる。
「勇者しか入れない。残念だが…」
私は自分の役立たず具合に歯噛みした。
「ソウコには明日私の婚約者の相手をしてほしい。頼めるか?」
私の胸中を察してかジークが提案する。
私は勢いよくうなずいた。