異世界転移に巻き込まれる
「成功したぞ!」
あたりから歓声がし、私は目覚めた。
私はゆっくり起き上がる。
頭が痛い。
まわりには黒く長いローブを着たおじいさんが数人いた。
一人、若者もいる。
褐色の肌にプラチナブロンド、エメラルドグリーンの瞳の絶世の美男子だ。
誰?
ここはどこ?
私は見知らぬ大理石作りのがらんとした部屋を見渡す。
学校に行くはずだったはず…。
あ、遥!
「遥…!?」
私は遥の姿をさがした。
「蒼子、起きた?」
遥がやってくる。
私は急いで遥に怪我がないか確認した。
「大丈夫。蒼子、僕たち異世界に来たらしい」
私は一瞬意味がわからずぽかんとする。
しかし、遥は真剣な表情だ。
「僕、勇者なんだって。どこのラノベだよね」
「私も聖女とか?」
遥が勇者なら私も?
少しわくわくしながら聞く。
遥はクスッと笑う。
「小説読みすぎ。蒼子もそういうこと言うんだ。蒼子は僕を召還するときに巻き込まれたらしい」
私はがっかりした。
「呑気だね」
その様子を見て遥があきれたように言う。
「僕たち、もう元の世界に帰れないんだよ」
私は衝撃を受けて固まった。
「帰れへんの!?」
遥がうなずく。
「蒼子が寝てる間話をした。魔力が足りないらしい。それこそ竜レベルの魔力がいるって」
遥は前方を指す。
人間の頭ほどもあるキラキラした紫の石が見える。中央から亀裂が入っている。
「今回の僕たちの召還には竜の心臓石をつかったんだって。見て、割れてる。もう使えない」
遥はため息をついた。
「ど、どうしよう…」
私は泣きたくなった。
「勇者ハル、話はすんだか?」
褐色のハンサムが話しかけてくる。
「彼はこの国の王子、ジークフリート」
遥が教えてくれる。
間近で見たらよくひきしまった筋肉を持つ、迫力の美丈夫だった。
「見とれないでよ」
遥が頬をふくらます。
「はじめまして、ソウコ。私はジークフリート。ジークでよい。体は大丈夫か?」
ジークがやさしく頬笑む。
私はあがりながら「大丈夫です」と答えた。
「約束守ってよね」
遥はジークを軽くにらむ。
そんな遥にジークがクククと笑う。
「もちろんだ、勇者殿」
何か私の知らないところで密談がされているらしい。
「ここはなにもない宮殿だ。城に戻るぞ」
ジークの一声でおじいさん達が動きはじめる。
一人のおじいさんが割れた竜の心臓石を持ってよろめく。
「半分、持ちます」
お年寄りには親切に。
「ありがとう、やさしいお嬢さん」
おじいさんはにっこりしてくれた。
私はうんしょ、こらしょと石を持ち上げた。
いや、持ち上げようとしたが重い!
苦労していると遥が横から片手で持ち上げた。
「え。すごい!」
「これが勇者の力ってやつだそうだよ」
遥がつまらなそうに言う。
「さ、行こっ」
遥は空いている片手で私の手をつかんだ。
(これからどうなるんやろ…)
私はため息をついた。