始まる救世物語
真紅の鮮血が自分の身体に塗れる。
左手が負傷し、焦点が合わず弾を浪費する。
目の前には数え切れない程の腐敗した人の死体が押し寄せてくる。
そのずっと後方から死体を投げ飛ばし近づいてくる巨体の怪物。
全てを終わらせるために僕は向かう
終焉の世界で
目の前に見える8:05に打ち勝つために...
8:05.......?
ガバッ
「やばっ!遅刻する!ごめん里奈、もう行く!」
高校二年の僕はまさに今、遅刻しようとしている。
まさか夢オチだとは...ちょっと名残惜しい。僕にしてはカッコ良かったのに...
二学期の始業式だと言うのに、初日から遅刻は先生方に面目ない。
昨日、あれだけ早くに寝たというのにアラームの音が毎度聴こえないのは一つの欠点だった。
「ちょっと待ちなさいなヨムラ。はいこれ!私の愛情弁当♡」
「ありがとー(棒)」
「何よその態度。遅刻させてあげても良いんだよぉ」
「ちょっ!分かったから!分かったから抱きついてこないで!」
僕を今まで育ててくれた唯一の母。
そのためか、お母さんという親族呼称よりも、親の名前で呼ぶようになってしまった。
どんな時も僕を支えてくれたとても有り難い存在だ。
「じゃ、行ってくる」
学校まではあまり遠くなく、微妙な距離感。電車通学では無く、徒歩での登校であり、だいたい15分程は掛かる。大通りには出ず、人気の無い通路を歩くので、朝にゆっくり歩くとのびのび出来る。
人の視線がないのは僕にとって、とっても嬉しいことだ。
だが、今の僕にはそんな余裕がないのは誰が見ても明確だろう...
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学校まであと200m程という所で、気になる物を見つけた。
道端に落ちていたのは一冊の本。魅力的な見た目だ。
「固い表紙で、一色の紅に彩られた物...いかにもゲームやアニメに出て来そうな本...」
手にとった本を見たが、表紙には何も書かれていない。
無題なものほど僕の興味をそそるものはなかった
「この本の内容は一体どんなものか」
固唾を飲み、思考錯誤したが、僕の妄想は域を超えていた。
昔からゲームを沢山プレイして来た中、謎解き系や転生系などに出る古びた本というアイテムが好きだった。ミステリアスであり、危険な香りがするような物が好き。つまりはスリルが欲しいのかもしれない、と言うよりそうであろう。
今までのアニメやゲームのストーリーを取り入れていたら、様々な物語が交じり合って、遂には、何故かメルヘンチックな物が頭の中で出来上がっていた。
その世界に飲み込まれぬように、素早く平常を取り戻し、期待をして最初の一ページを開こうとした...その時
学校のアラームが鳴った
鳴った
なった
「なっ…た…」
……………
一瞬、時が止まったような感覚になった。
きっと今のは予鈴だろう。持って五分の猶予。校庭や、階段などの距離いれると、間に合うかどうかの瀬戸際。
「遅刻する…取り敢えず持って行こう。交番は近くにあるし、下校時に届けるとしよう」
べっ、ベッ、別に盗むような事はしないよ!し,な,い,か,ら,ね?
そんな言葉を自分の心に咎め、その場を去ろうとした。不意に
『助け…て…』
「…誰の声…だ?」
聴こえた。聞こえるはずの無い言葉が…
周囲を見回しても誰もいない。本から聞こえたような気がしたが、きっと幻聴だろう。再び歩き出そうとすると
『助けて!』
次はしっかりと聞こえた。自らのバッグから。
ここまできてしまったら無視するわけにもいかない。
自分のバッグに手を伸ばし、恐る恐る中身を探り再び手に取った。
表紙は相変わらずカッコよく、紅に染まっている。
『
異世界へのポータル
※この本は手に取った人にた適応したテキストになります
』
………………………………………………………………ネタ本だな
何のために作ったのかは、本物か、からかうために作ったのか、それにしては音声まで着けてとても手の込んだものだと思い読み進めた。
『
転生するつもりがありますか?
YES NO
』
「なにこれシンプルすぎるでしょ。流石に手を抜き過ぎてないかっ!」
何なんだこれは⁉︎つい声に出してしまった。人がいなくて良かったが...ゲームでもアニメでももうちょい作り込んでるだろう...
次のページからは全て白紙であった。
何のためだよ、このぶ厚い量の紙は...
「しかもYESかNOってこれどうやって答えれば良いいの?声に出すのか、書き込むのかはっきりしてよ!ましてや文字に触れるわけでもっ...て…………………………….ぁ?…………………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!]
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突如として何も無い空間に僕はいた。
いやそこは僕の姿はない。自分の身体があるという感覚がない。
辺り一面が真っ白だ…何故か浮遊感がある
意識が少しづつ遠のく…
『 意志を受託しました。
これから身体髪膚、ならびに魔力の保有とする器を生成、
記憶の移行・言語の改称を開始します。 』
今の声は...?暗闇が近ずいてく...る...
なんてことない人生だった
[7%]
代わり映えの無い周囲だけを見て
周りに合わせて踊る操り人形のように
[26%]
自分の意思で動いていようとも
[34%]
劇場の上で踊らされている様に感じた
[45%]
17年という時の中で得たものが多いのか少ないのか
[58%]
そして、今
操られる糸を裁ち切った様に
[77%]
とても気持ちが清々しい
[89%]
このまま散って逝くのだろうか
[100%]
出会いは唐突。
僕に大切な『者』と大切な感情を与えて今日
夜夢羅の幕が上がった。
そして眼前には真っ赤な液体と生臭い匂いが舞い込んで来た。