クリスマス(~中学 大河内沙耶~)
冗談で中学、高校で唯一友達だった加藤に付き合おうと言われた時も、何とも思わなかった時がある僕は
「僕には同性の友達も少なかったから分からないけど、否定は出来ないかも」
「もし岩崎君に男の子が告白してきたら?」
「僕は、無理だと思う。友達なら別だけど」
「私も友達でいたかった。だけど、あの日この場所で沙世ちゃんから告白されたけど、気が動転して、言葉を返せなかった。
岩崎君と付き合っていると言っていたのに何で?とも思ったけど、私が岩崎君に気がある事を知っていたから、岩崎君と付き合っていると嘘をついていた事が、その時に理解した。
同性からの告白に対しての戸惑いよりも、嘘をついていた事に失望した。」
続けて大城さんは話し続ける。
「それ以上に岩崎君に対して、ひどい事をしてたの」
「ひどい事?」
「うん。岩崎君、私が一度いじめられそうになった時の事覚えてる?」
「うん」
中学1年の正月明けの事である。
~ 中学1年 岩崎俊 ~
1月9日(月曜日)
今日から学校が始まる。
僕は、サンタ、神様に友達が出来るようにお願いした事もあり、新たな年に期待を膨らませて登校したのであった。
一度教室に行き、始業式へと体育館に行く。
校長先生の話を聞き、教室へと戻る。
生徒だけ先に教室に戻り、先生は一度職員室に寄ってから教室に来る。
そのわずかな先生がいない時間の出来事であった。
いつも僕の事をいじめてくる、男3人組が僕の所に近寄ってきた。
「おい岩崎。お年玉いくら貰った?」
僕は貰った額を伝える。
「全部で4万円」
「そんなに貰ったのかよ?それで?何か買ったのか?」
3人組の反応を見て、ちょっとだけ優越感に浸る。
最新のゲーム機とソフトを購入した事を伝えると
3人組の一人が顔を近づけてきて
「今度、遊びに行ってもいいか?」
その言葉に友達が出来る予感を感じた。
心の中では、クリスマスではサンタさんに、初詣では神様にお願いした事が叶うと思った。サンタさn、神様への感謝を心の中で伝えた。
僕は問いにすぐ答える。
「いいよ」
すると、隣の席の大城さんが話に加わってきた。
「え~いいなあ。私も遊びに行ってもいい?」
中学1年ともなると、男女が異性を意識してくる時期である。
女子が男子の家に行きたいといえば、女子より精神年齢が子供である男子は決まって疑う
この時も男子はマニュアルに書かれている通りの言葉を放つ。
「お前らできてるのか?」
僕は顔を赤らめながら、
「違うよ。なんで大城さんなんかと」
つい言い過ぎた事に気づくが、この大事な時に引き返せない。
大城さんが、少し怒った口調で
「私だって、こんなおバカさんなんかと」
と言い返してきた。
僕も友達を作れる、このチャンスを逃したくない一心で、ありもしない嘘を口に出していた。
「僕はバカじゃあないよ。大城さん、この前、赤点とったでしょう?」
彼女は顔を赤らめてムキになって言葉を返す。
「私 赤点なんか取った事なんてない」
そこで精神年齢が低い男子がマニュアル通りの言葉を大城さんに向かって大声で
「えっ 大城赤点とったの?」
「大城ってバカなんだ」
と男2人が続けて大城に、あおる様な言い方で言い放つ
すると、大城さんの目から涙が溢れだす。
そこで、先生が教室に入ってきた。
先生は大城の所に近づき
「大城、どうした?」
大城さんは目を潤しながら
「男子にいじめられました。」
先生が皆に向かって
「大城をいじめたのは誰だ?」
一瞬、教室の空気が止まった。
僕は、手を挙げ立ち上がる。そして小さな声で
「僕がやりました。」
先生は
「では大城さんに謝りなさい」
僕は彼女の方を向き深々と頭を下げ
「ごめんなさい」
先生は、大城に向かい
「どうだ?これでいいか?」大城さんは、ハンカチで目を覆いながら頷く。
先生は教壇へと戻り、ホームルームを始めた。
そして、先生の話も終わり、授業も無い3学期の初日は終わった。
僕は帰ろうと席を立ち教室を出ようとした時、男3人組が近づいてきて
「岩崎 さっきはごめんな」
「いいよ」
「一緒に帰ろうぜ」
「いいよ」
淡々と一言返すだけだったが、心の中では、加藤以外の男子と帰るのは中学に入って初めてであった。部活も今日と明日の2日間は休みだったので、友達が出来る期待を抱き一緒に帰る。
そして4人は学校を出て、近くの公園に寄る。
皆は日常的に公園に寄っているそうだが、寄り道は禁じられていたので、僕は少々寄り道する事に緊張し気が引けていた。ただ、今日だけは断れないと強く弱気になる心を奮い立たせる。
公園に入ると右にトイレがあり、右奥に2人が乗れるブランコ、正面奥に鉄棒が2つあるだけで、中央全体が広場となっている。広場といっても野球など出来るスペースも無く、ゲートボールを行う事が出来るぐらいの広さしか無い。そして四方にベンチが設置してあるので、近くの老人が日常会話やゲートボール後に座って会話をしている。僕たちは、公園に入って左側面にあるベンチに向かう。ベンチは3人掛けなので僕だけが立ったまま会話が始まる。
「大城ってムカつくよな?ちょっと痛い目あわせてやろうぜ」
あまりに唐突な言葉に困り下を向く。
他の2人も、賛同して
「いいね やろうよ。ちょっと可愛いからって調子に乗ってるんだよ」
「じゃあ 明日、机の中の物をどこかに隠しちゃおうよ」
この様な会話を聞いていると、僕にも同じ事をしていたのかと複雑な気持ちになった。
「明日、俺が早く学校に行って隠すよ」
会話を聞いていると、いてもたってもいられず、口を開く。
「ごめんね。この後、親と出かける事になっているから、僕帰るね」
といい、この場を去って行った。
翌日
いつもの様に教室に入ると大城さんの姿が目に入った。
何かを探しているのが、すぐに分かった。
僕は席に着く。
すると大城さんが僕に問いかけてきた
「岩崎君 私の机の中に置いてあった道具箱知らない?」
「うん」
とだけ、返答を返す。
すると、後ろで大河内さんの声がする。
「ゴミ箱に何か入っているよ。これって大城さんの道具箱?」
と一番後ろから前まで聞こえるような大きな声だった。
大河内さんはゴミ箱内で散らばっている道具箱の中身を道具箱にしまい、大城さんの所まで装具箱を持ってきた。
大城さんは、道具箱の中身を整理し始めた。
大河内さんは、男3人組を教室の外に連れ出す。
僕はその姿をみて、大河内さんもグルなのかと疑問を抱く。
その後は平常通りの授業が始まり、何事も無く終り、1人で帰ろうと下駄箱に向かう。
下駄箱で靴に履き替え外に出て校門まで行く途中、学校の体育館の方に大河内さんが先頭で男3人組が後ろを歩く姿が見えた。
僕は、また何か悪い事を考えているのだと思ったが、問い詰める勇気も無く、4人の後を追いかける度胸も無かった。
僕は大河内さんも仲間だったと確信した。
僕は見て見ないふりをして、校門に向かった。
家に着いた僕は、そのまま自分の部屋に行き、昨日と今日起こった事を思い返す。
いつも、気を掛けてくれていた大城さんが、僕に言った一言のせいで「いじめ」られる。
何で?
僕のせい?
僕も大城さんをいじめている?
何故この様になったのか?自問自答を繰り返す。
(大城さんは、ショックだったろうな)と思い、自身が初めていじめられていると思った時の事を考える。
僕は、そのまま長い間「いじめ」に苦しんできた。
大城さんを僕と同じ目にあわせてはいけない。
ここまでは、何度も考えるのだが、どうしてよいのか分からない。
刻々と時間が過ぎていく。
夕食、お風呂を終え、再度、部屋で考える。
僕も、自分でいじめをやめてもらう事が出来なった。
僕の力では無理なのか?
大城さんや僕がいじめられなくなっても、結局、他の誰かがいじめられる。昨日の様にたわいもない事で、それも簡単にいじめは発生する事が分かった。いじめ事態は無くならないものだと認識した。
無くならないのなら、僕が「いじめ」を引き受ければ・・・・・
何気なく考えた案だったが、考える範囲がせまい僕にとっては、この答えしか導き出せなかった。全てのいじめを無くす事は出来ないが、大城さんのいじめだけは、防げると確信した。
僕は、ベッドから起きて机に向かった。
1通の手紙を書き終えた。1行しか書いていない手紙である。これを「いじめ」があった時に彼女に渡して、彼女が読んでその通り従ってくれれば、彼女はいじめから解放されるはず。
僕は大城さんを助けたい一心で考えたプランであった。
手紙の内容は
(いじめられていないと言って。)
この一言であった。
そして翌朝
僕はいつもの様に学校に行き、門を通過して下駄箱まで着いた。
すると、下駄箱の前で大城さんが泣いている。
僕は、すぐに上履きを隠されたのだろうと分かった。僕にも同じ事をやっていたからだ。
僕は大城さんを通りすぎ、隣のクラスの下駄箱を探す。
やはりあった。
それにしても、僕の時とまるっきり同じ手口である。
僕は大城と書かれた上履きを掴み、鞄の中から手紙を出し、上履きと一緒に大城さんに渡す。
渡す時、小さな声で、「一人でみて。その後は僕を無視して」とだけ言い、僕は自分の上履きを履き教室に向かった。
そして教室に入り、僕は席に座った。
大城さんも後から席に座る。いつもは、友達の所に話に行くのだが、彼女は教室を出て行った。
(よし、トイレに行ったのかな?)
そして彼女は席に座る。座る直前、彼女がこっちを見たような感じがした、いつもなら、さっきはありがとう等と話しかけてくるところだが、その言葉が無かったので、手紙を読んでくれたと確信した。
先生が入ってきた。横の大城さんを見ると、涙ぐんでいるのが分かった。
僕は、その姿を見て強い意志をもったのである。
そして、朝のホームルームが始まる。
先生が教壇に立つと、当番の子の「起立」の言葉に全員が席を立つ。
先生が
「おはようございます。」
と挨拶をし、皆がその言葉に続き「おはようございます。」と挨拶をした。
当番の子が「着席」と言うと皆が席に座るのだが、僕は席に座らず立ったまま、先生に向かって話始めた。
緊張で心臓の音が聞こえるようだ。僕は震えながら
「先生、大城さんがいじめられています。昨日は道具箱を隠されて、今日は上履きを隠されていました。やったのは「矢野君と林君と安達君と大河内さんだと思います。」
大河内さんが、すかさず席を立ち、僕と先生に向かって怒った口調で
「私はそんな事やってない。やるわけ無いでしょ」
先生が大城さんに向かって
「大城、岩崎の言った事は本当か?」
大城さんは、首を横に振る。
男3人組の矢野君が
「ほら、大城さんもやられていないっていってるだろ。俺達がそんな事する訳ないだろう。」
僕は先生に向かって
「僕の勘違いでした。」
そのまま後ろを向き
「ごめんなさい」と謝罪し、横の大城さんにも「ごめんなさい」と謝罪した。
先生が皆にいう
「この前から、どうかしてるぞ。もし、いじめられていたり、いじめをみたら、先生に言いに来るんだぞ。」
と言い出欠を取り始める。
午前中の授業が終わり、昼休み。
案の定、男3人組が僕に近づいてくる。
平手で頭を叩き「岩崎、何言ってるんだよ」と言ってきた。
僕は下を向いたまま、彼達の暴言をひたすら無視した。
後ろから大河内さんの声が聞こえた、怒っている口調というよりか、怒鳴り声に近い
「あんた達、また理佳に「いじわる」したの?岩崎に八つ当たりする前に、理佳ちゃんに謝りなよ!」
廻りの女の子達も集まってきて、男3人組に怒鳴る。
男3人組は溜まらず、大城さんに向かって謝罪をした。
「ごめんなさい」
大河内さんは、更に3人組に要求を出す。
「もう二度としないと言いなさい」
男3人組は、
「もう二度としません。許して下さい。」
大河内さんは大城さんに
「どうする?」
大城さんは、首を横に振り
「もういいよ。でも、もうやめてね」
男3人組は
「分かりました」と終始、大河内さんの言いなりであった。
男3人組は逃げるように、その場を後にした。
もしかして、これも打ち合わせ通りなのかと疑った。
もう昼休みも残り少なくなり、クラスの女の子が大城さんと一緒にトイレに行くため、教室を出て行った。
その場に残った大河内さんは、顔を僕の耳の横に近づけ
「お前、ふざけるなよ」と囁く。
僕は、大河内さんの言葉に戦慄を感じた。
この時は、とてもこの様な言葉を言う子には、見えなかったので意外である。直接話したのは、これが初めてであった。
この事をきっかけで、「いたずら」から「いじめ」に変わったのだと思う。
今回の大城さんや僕に対する一連のいじめの主犯は大河内さんだと、最後の言葉で確信した。
そして、午後の授業も終わり、部活に足を運ぶ。すると後ろから声がする。
「岩崎くん」
大城さんであった。
「今日はごめんね。・・・・・・本当にありがとう」
目には涙で潤んでいた。
「気にしないで、僕は慣れているから。でも、しばらく僕には声を掛けない方がいいよ。今回の事で女子にも敵を作っちゃったみたいだから。僕と話すと面白く思わない人もいるかもしれないから。」
僕は、部活に向かって歩き始めた。
~ 中学時代にあった大城さんのいじめとは、この事である。〜
大城さんが、話を続ける
「あの時、沙世ちゃんを疑ったでしょ?それから男子を使って岩崎君をいじめていたんだって」
僕は何となく分かっていたが
「そうだったんだ」と返答をする。
「確かに、あの時は岩崎君が間違えていたんだけど、いじめるのはおかしいよね?
沙世ちゃんが私に告白した後、岩崎君に対しての行為も伝えられて、増々頭がパニックをおこして、家に走って帰ってしまったの。実はそれから会話して無いんだ」
「そんな事があったんだ」
大城さんは頷きながら「うん」と答える
「親には男子にいじめられると言って、九州に戻りたいとお願いしたの。ただ、岩崎君への想いをどこかで伝えたかった。岩崎君、部活の卒業公演の時に二人きりになったの覚えてる?」
「うん。演奏会が終わって、親の車が来るのを僕が待っている時だよね」
「うん。あの時、私、告白しようと思っていたの。でも携帯の番号を聞くのが精一杯だった。」と笑みを浮かべる。
「実は僕もあの時、大城さんに告白したいと考えていたんだ。僕も言えなかったけど」
と苦笑いをする。
「岩崎君・・・・」
僕達は見つめあう、まだ日が出ていてマンションの前のベンチで、人の姿も見かけるこの場所で二人の世界に入る。ごくごく自然と顔が近づく、大城さんが目を瞑る。
そして、「あれ?大城さんの所のお嬢さん?」と声がして、二人は慌てて離れた。
声の主は、大河内さんのお母さんであった。
ここから5分程歩いた所にある診療所が大河内さんの家である。買い物の帰りだったのか、エコ袋を持っていた。
大城さんは「ごぶざたしています。」と礼儀ただしくお辞儀をする。
すると
「大城さん、九州に戻ったって聞いていたから、びっくりしたわ」
「高校時代だけ九州に戻って、東京の大学に決まったので、また戻ってきました。」
と笑顔で話す。
「沙世ちゃんは、九州大学の医学部に入学したから、てっきり大城さんの所に行ったのかと思ったわ。仲良かったから」
「沙世ちゃんは九州にいるんですか?」
「そうよ。あの子は高校でも相変わらず友達も作らなかったから、てっきり」
と言葉を濁す。
「でも大城さんは幸せそうで良かったわ」と含み笑いをしながら言った。
そして、大河内さんのお母さんはその場から離れていった。
さっきまでの盛り上がりは、嘘の様に消えていった
二人はベンチからたち、駅の方に歩き始めた。
勿論、手を繋いでである。
「ねえ岩崎君?」
「なに?」
「二人の時だけ、名前で呼び合わない?」
僕は照れながら
「うん」と答えた。
「それと、クリスマスの時だけは恋人になろうね」僕の顔をのぞき込むように話し掛けてきた。
僕は笑みを浮かべながら
「うん」と答えた。
1年に1日の恋人になる日が誕生した。