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神様へのプレゼント  作者: 鈴月桜
第10章 結末
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癌に勝つ

12月10日、今日は木曜日だったが、痛みが強く、鎮痛剤を入れてもらうため、中島先生がくる事になっている。

腰が物凄く痛く、注射無しではいられない。

理佳は、今日は休みを取らなかったので、僕一人であった。

玄関のチャイムが鳴る。

僕は起き上がり、玄関に向かう。

玄関の鍵を開けると、大河内さんの姿が見えた。

そして部屋の方に歩いて1歩足を踏み出した瞬間、意識を失い倒れる。

かすかに大河内さんの声が聞こえる。

僕が気づいた時は、既に病室に寝ていた。

呼吸心拍監視が取り付けられ、鼠径部に点滴の針が刺さっている。

理佳の声が聞こえる「俊」

何度か意識を失う度に、理佳の僕を呼ぶ声を聞けた時に、まだ生きていると感じる。

予定ではLIVEの1週間前に入院する事になっていたので、少し早い入院になった。

「理佳、ごめんね。ちょっと早く入院する事になっちゃった。」

「もうしょうがないな」と笑顔で僕に返事をする。

僕は、この笑顔に救われる。

そこへ林先生がやってくる。

「痛みは大丈夫?」

「はい」

「いつもの事ですけど、気持ちが悪いです。」

「今日は、しっかり寝てなさい。」

先生の言葉を聞き、目を閉じた。

目を閉じるろ、もう二度と開かないのではと恐怖が生まれる。

ただ、この時は目を自然と瞑ってしまった。

私は俊が寝たのを確認して病室を出ると、沙世が私服で近づいてくる。

「一緒に帰ろう」

私は「うん」と頷き、共に歩き始めた。

「今回は、相当まずいかも」と沙世が話し始める。

何度も何度も同じ言葉を聞いてきた私は、気の無い返事をする

「そう・・だよね」と無理やり笑顔を作る

二人は無言のまま、駅に向かう。

「ねえ 理佳?」

「なに?」

「今の理佳が岩崎君に対する想いを伝えなよ。寂しければ寂しいと、辛ければ辛いと。今の想いを伝える事も愛情だと思うよ。言い方は悪いけど、死んだら愚痴る事も怒る事も出来ないよ。理佳が選んだ旦那なんだから、きっと受け止めてくれるよ。もし受け止めなかったら私が活をいれるから」

「ありがとう。俊は病気で弱っているから、自然と気を使っているのかも。前から少し感じてた。」

「うん。それがいいよ。ただ、病室で怒鳴らないでね。」

「分かった。」

そして、翌日

面会時間の1時間前、加藤が病室にやってきた。

「俊、大河内さんがうちの病院にいるぞ」

「えっ知らなかったの?家に中島先生と来てたよ。」

「家に?」

「在宅医療の勉強のため、付き添いで来てたよ。」

「へえ~。でも大河内さんは産婦人科だぞ」

「そうなの?」

「相変わらず、周りに冷気を発しているみたいだぞ。」

すると加藤の後ろに鋭い眼光を放つ大河内さんの姿が見えた。

「何の冷気だって?私は化け物か」

加藤は驚き慌てて病室を出ていった。

僕は大河内さんに尋ねる

「どうしたの?」

「岩崎に言っておく事がある。」

大河内さんの真剣な表情に緊張感が漂う

「お前病気に負けるなよ」

この状態で医師が言う言葉でない

「僕の病気は」

と言いかけた時、話を切られ

「分かってる、私は医者だ、どうあがこうとお前は死ぬ」

余りにも直球すぎる言葉だった。

「私が負けるなと言った訳は、これから痛み止めの量が増える。意識が遠ざかる事もあるだろうけど、息を引き取るまで理佳への愛を貫け。途中でがんに意識を取られたらお前の負けだ。私から理佳を奪ったんだから、それぐらいの根性みせなよ。分かった?」

「うん。がんには絶対に負けない。最後まで理佳を愛する。愛してみせる。」

大河内さんの言葉はきつかったが、理佳への愛を貫こうとする気持ちが強まった気がした。

「薬が多いようだったら、減らしてやってもいいよ」

「そんな事出来るの?」

「うん。ただし、痛みで死ぬけどね」

「そりゃあ無いよ」

「私は何で岩崎なのか分からなかったけど、悔しいけど理佳とお似合いだよ」

「ありがとう。理佳から大河内さんとの事を聞いた時、気持ちが分からなかったけど、今なら分かる気がする。女性の理佳ではなく。大城理佳を愛していたんだね。」

大河内さんは、意表を突かれたのか顔が歪み、後ろを向いた

そして「ありがとう」と言って病室を出て行った。

すると、すれ違う様に看護師が病室に入って来た。

「どうしたの?」

僕は、その問いに疑問を抱く

「先生泣いていたから、びっくりしちゃった。」

それから面会時間まで、点滴を受ける。痛みが日増しに強くなってくる。

そして面会時間になると同時に理佳が病室にやってきた。

病室に入ってくるなり、

「俊、愛してる」と抱きついてくる。

僕は何なのか分からず、理佳を受け止める。点滴が邪魔をして思うように抱けない。

すると理佳は又同じ事を言い始めた

「愛してる」

僕は、何が何だか訳が分からず戸惑う

「どうしたの?」

「俊が生きている間、何回も何百回も愛している事を伝えたくて」

「理佳が僕の事を愛してくれているのは、分かってるから」

「だめ、それでも言うの」

まるで駄々っ子がいるみたいだった。

後ろから声がする。

「あのね~」

あきれた顔をする大河内さんの姿が見える。

「確かに今想っている事を伝えなよと言ったけど、私は理佳の心が壊れないか心配だったから、愚痴でも言えと言ったんだけど。」

理佳が大河内さんを見つめる。

「まあ、いいや」と苦笑いを浮かべる。

「ところで、演奏するって聞いたけど」

理佳が答える

「うん、クリスマスに友達が結婚披露宴をLIVE会場でやるから、参加するんだ。勿論、俊も1曲参加する予定だよ」

「えっ 岩崎君も?」

僕も何となく無理だと感じていたが、大河内さんの表情を見て、確信に変わった。

理佳は僕が演奏できると信じている。

僕は、その話に乗らず別の話をした。大河内さんも察したのか、これ以上ライブの話をしなかった。

入院が続くにつれ、呼吸も苦しくなってきた。勿論、痛みは慢性的に襲ってくる。

食事も口から食べれず、点滴で栄養を摂る。

自分で歩く事も難しい状態となった。


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