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神様へのプレゼント  作者: 鈴月桜
第1章 出逢い
3/43

〜中学3年 合唱コンクール〜

~中学3年 合唱コンクール~ 


合唱コンクールの本番前に2クラス合同で予行練習が行われる。

4組しかクラスが無いので、1,2組と3,4組が合同で予行練習を行う。

僕の2組と大城さんがいる1組で合同練習を行う。

クラス毎に入場から退場まで、本番を想定した練習である。

まずは1組が入場する。順番に檀上に上がっていく。パート毎に身長が低い子が下段に立ち、身長が高い子が一番後ろの列になる。

僕は無意識に大城さんを探す。

背の低い大城さんは、前列にいるのかな?と見渡すが見当たらない。


あれ?大城さんは?


すると指揮者と大城さんが最後に入場してきて、指揮者は台に上がり、大城さんは皆が並んでいる一番前の列より一歩前に出たところで止まる。


大城さんの後に皆んなが並んでいる。


中学3年になった彼女は、中学入学時の可愛さに女らしさも加わり、まるで妖精のように穢れなき存在に感じる。彼女を見ていると守ってあげたくなる。

そして、指揮者が手を上にあげ一旦止まると、大城さんが指揮者を見る。


曲は「翼を下さい」である。


指揮者が下に小さく振り、大城さんがソロで歌い始める。

弱々しい彼女からは考えられない程、大きく、そして透き通る声で会場を包み込む

(今 私の願い毎が叶うならば 翼が欲しい)ここまで歌うと、一度指揮者は手を下げ、再度、指揮を振りなおす。

するとピアノの伴奏が始まり、曲が始まった。


ソロは最初だけだったが,いつまでも大城さんの歌が脳裏にこびりつく。今まで歌を聴いて、ここまで心に刺る感動を味わうのは初めてであった。

そして、1組の合唱が終わり、続いて2組の合唱も終わり合同練習が終了した。


3年のクラスは1号棟と呼ばれる所の4階にある。体育館での練習を終えて、1,2組が同時にクラスへと戻る。


僕はいつもの様に一人でクラスへと向かって1号棟に入り、4階まで階段を上っていると、僕のすぐ前から大城さんの声が聞こえた。

僕は下を向いて歩いていたので、目の前に大城さんがいる事に全然気づかなかったのだ。


大城さんに

「歌が凄い上手かった」

とだけでも伝えたい。


僕は辺りを見渡す。すぐ後ろも1組の生徒だったので、僕は思い切って大城さんに話掛けた。


「大城さん」


声が小さすぎたのか、気づかない。もう少し大きな声で呼ぼうと思った瞬間、大城さんが後ろを振り向く。


僕は大城さんと目が合い、つい下を向いてしまった。

大城さんの横の子が、いきなり後ろに振り向いた大城さんを見て

「どうしたの?」と大城さんに問いかける。


「ううん。何でも無いよ」と横の子に伝えた後、また僕の方を向いた。


僕は大城さんに向かって、緊張しながら

「すごく良かった」とだけ伝えた。

すると大城さんは笑みを浮かべて

「ありがとう」と言葉を返してくれた。

その笑顔に僕はたまらず、また下を向いてしまった。

大城さんは前を向き、階段を昇り始めた。


すると、後ろから声が聞こえてくる。

「あっ ごめんね」

と人を掻き分け、近づいてくる子がいる。大河内さんだ。


大河内沙耶とは、2大美女の一人である。


僕の中学校では大城さんと大河内さんの事を2大美女と呼んでいた。身長は平均より高く、ロングヘアーで色が白い。切れ長の目が印象的で彼女が醸し出す冷たいイメージにピッタリである。頭も運動神経も良く、非の打ちどころが無い。


彼女は大城さんと仲が良く、僕が大城さんと話そうとすると、何故か決まって大河内さんが邪魔をする。

今回も下から大河内さんが近づいてきて、3階を過ぎて4階に近づいた所で、僕の横まで上がって来て、前の大城さんに向かって話しかける。

「理佳ちゃん、歌すごくうまかったよ。本当に感動したよ」

大城さんは満面の笑みを浮かべ

「沙耶ちゃん ありがとう 2組もうまかったね」

と言った。

ここで階段が終わり、大城さんは教室に入っていった。


となりにいた大河内さんは、怒っていたのか顔がほのかに赤く、僕を睨んで

「あまり調子に乗るなよ」

と、いつもの声より、少しやさしい口調で言ってきた。

僕は、何を調子に乗ったのか分からなかったが

「ごめん」

とだけ言葉を返した。


そして合唱コンクール当日


合唱コンクールは、土曜日に行われる。この日は、学校でバザーが開催され、合唱コンクールは、午前中のイベントとして行われる。

学校へはいつもより1時間遅く登校する事になっており、僕も両親と5年生の妹と一緒に登校した。

学校に着いた僕は教室に向かうため、親と別れる。

教室で発声練習を終えて合唱コンクールの会場である体育館に向かう。


発表順は、事前の抽選で決められており、僕たち2組は一番最初であった。

2番が3組、3番が4組、そして最後が1組の順でコンクールは行われる。

この順番をみて、僕は自分の事の様に最後の1組の大城さんの歌で会場がどよめく情景を思い浮かべていた。


合唱コンクール開催時間となり、初めに校長先生、次にPTA会長の言葉が終わり、本番が近づく。

僕は前に出て歌う事に極度に緊張する。大城さんの様にソロがある訳でも伴奏、指揮をする訳でもないのだが、背が低い僕は一番前で歌う事に恥ずかしさも含め緊張が増していた。


生徒の席は、前から1組の女子で2列目に1組の男子が座る。

同じ様に2組3組4組と並んでいる。


いよいよ始まる。


2組が呼ばれる。

「1番 2組 曲は「流浪の民」」

僕たちは席を立ち、檀上へ向かう。

そして、僕も定位置についた。


指揮者が手を上げるまでは、前を向いて姿勢を正す。

姿勢も審査の対象と言われているため下を向く事が出来ない。

父母達は、生徒の後ろに席があり、自分の子供をビデオに撮ろうとビデオを向けている。

そんな注目を浴び、緊張しながら視線を動かさず真正面を見る。すると僕の目線に大城さんの姿が目に飛び込んできた。ステージと生徒の席は少し離れているが、僕と大城さんの前には、遮る物は無く、ダイレクトに大城さんが見えた。


大城さんもそれに気付いたのか、僕と目が合った。


僕は更に緊張が増してきた。すると大城さんが、笑顔で手のひらだけを上げ、僕に向かって手を振ってきた。もちろん返す事は出来ない。大城さんは僕に向かって何かを語ろうと口を動かしていた。


「がんばって」と言っているように感じた。


僕は大城さんを見る事しか出来なかったが、すごく気分が落ち着いた。すると、指揮者が台に上がる。

手を上にあげると、真正面を向いていた体を指揮者の方に向ける。

伴奏が始まり、今までの練習以上に声を出した。

曲が終わると、初めて歌い切ったと感じる満足感が生まれた。


客席からの拍手が、満悦感に変えた。


そして、指揮者が手を下げると始まる前と同じく正面を向き、観客に向かってお辞儀をする。

頭を上げると。大城さんが見えた。

始まる前と同じ様に、手のひらだけ上げこっちに向かって手を振る。

僕は頭を少し下げ、軽く礼をした。

そして席へ向かった。

席に座り、前を見ると背の順で低い子が座っている筈なのに背が高い子が僕の前に座っている。大河内さんだった、僕の前の席になぜか大河内さんが座っている?

すると、大河内さんは、僕に手のひらを向け、「こっちにこい」と表現するように、手のひらで仰ぐように手を動かす。僕は座りながら、乗り出すように顔を大河内さんの所に近づけた。大河内さんは、小さい声で「調子にのるな」と言ってきた。

この前の階段の時とは違い、脅すような冷たい口調であった。

僕は、この前と同じ様に「ごめんなさい」と謝った。

順番は進み、最後の組である1組が呼ばれた。

大城さんは、予行練習と同じ中央にとまる。

僕が見ても緊張している様子が分かる。僕でさえ、あんなに緊張していたのに、ソロのある大城さんは並みの緊張では無いはずだ。

大城さんは、誰かを探しているかの様に、辺りを見回していたが、僕と目が合った瞬間動きは止まった。僕の時みたいに緊張をほぐす事は出来ないかも知れないが、大城さんが僕にやった様に、手のひらだけ大城さんに向けて、手を振ってみた。

大城さんは軽く微笑んだ様に感じた。更に僕は同じように「がんばって」と口を動かした。

その時、指揮者が台に上がった。

大城さんは、一歩前に出る、すると大城さんの頬に涙が流れている。会場の一部の人が気づきざわめく。指揮者の合図により大城さんが歌い始めた。

「今 私の願い事が 叶うならば 翼が欲しい」この1フレーズを歌い上げた。

予行練習で聞いた時より、大城さんの声が胸に突き刺さる、僕の頬にも涙が流れ落ちた。


歌を聞いて泣いたのは、これが初めてであった。それ程、大城さんの声が響き、声だけでなく翼が欲しいと本気で祈るような切ない感情が伝わったのだ。

曲が終わると、会場も今までで一番大きな歓声に包まれた。

ふと前を見ると、ハンカチで目を覆う大河内さんの姿が目に入った。大河内さんが泣くとは考えてもみなかった。僕の勝手なイメージでは、このような感動する曲も冷静に評価する様なイメージをもっていただけに、大河内さんの涙は以外であった。

(大河内さんにも、やさしい感情があるんだな)と、何故かホッとした。

結果発表

僕達2組は2位であった。1位は勿論1組であった。結果発表では4位から順に呼ばれる。

3位の発表の時は「呼ばないで」と祈る。今まで球技含めて、こんなに結果を求めた事が無かった。3位が4組と分かるとガッツポーズまでは出来ないが、拳を強く握りしめた。1位の発表も、1組とは思ったが一生懸命祈った。

合唱コンクールを終えて、音楽の楽しさ、素晴らしさを実感した。

そして合唱コンクールは終わった。


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