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神様へのプレゼント  作者: 鈴月桜
第7章 新婚
28/43

過去

そして夜が明けて、朝日を見るため、ベランダに出る。

俊「何だろう。朝日を観てると何も考えないで、無になれる感じがする。」

理佳「そうね。」

と朝日を観ながらしばらく会話が弾む。するとホテルに白いベンツが入って来たのが見えた。特に気にしていなかったが、ベンツに乗っていたのは誰か5分後に分かった。


部屋に電話がかかってきた。

フロントからである。

「病院の先生が見えました。」

二人は顔を見合わせる。

理佳「今日も点滴があるの?」

俊「エッ聞いて無いよ。」

部屋の前に出て先生を待つ。

すると、中島先生が走って来た。

中島「ごめんごめん朝早くから、君達に渡すものがあって」

先生は封筒を持って来た。そこには、俊が診療を受けている病院名が書いてあり、

消化器内科 林先生御中

と書いてあった。

それだけ渡すと中島先生は帰って行った。


僕達は朝食を済ませ、ホテルを後にした。

駅前で土産を買い、色々あった新婚旅行が終了した。


家に着き、本当は金曜日受診予定だったが、今回の事もあり、明日受診する旨を話すため病院に電話を掛ける。

電話交換手が電話に出て、消化器内科の受付へ電話を繋いでもらう。

受付事務員が電話に出て、下田での症状、そして林先生の紹介状を貰ってる事を伝える。

医師に確認をとるため、電話が保留になる。しばらく待つと、受付事務員が話し始めた。

「明日は林先生の診察になりますので、午前10:00頃お越しください。」

俊「分かりました。よろしくお願いします。」

そして電話を切る。


理佳「明日大丈夫だって?」

俊「うん。10時だって」

理佳「ちょっと買い物行ってくるね。」

俊「ごめん。ちょっと横になってていい?何か疲れちゃって」

理佳「うん。ゆっくりしててね」

俊「ありがとう。」

理佳は、買い物をしに家を出た。

俊は布団を敷き横になると、直ぐに眠りについた。


「俊!」

理佳の声が聞こえてきた。

俊は目を開けると、理佳の顔が目に入る。

理佳「ご飯出来たよ。」

時計は6時を過ぎていた。

俊「ごめん。熟睡しちゃった。」

テーブルには、理佳の手料理が並んでいた。理佳の手料理は、初めてである。

理佳の作った肉じゃがを食べる。

俊「おいしい」

理佳「本当に?」

俊「本当においしい」

本当においしい肉じゃがだった。

旅行の話、hopeの話をしながら、楽しい食事が終わる。

痛みは、相変わず少しあるが、昨日の様な痛みは無い。

ただ、明日は診察があるので、早めに就寝した。


翌日、二人で病院に向う。

再来受付機で診察券を通し、消化器内科の診察室前に座る。

消化器内科の診察室は3個あったが、下田の中島先生が書いた紹介状に書かれた林先生の名前は診察室の医師名が書いてある掲示板に無かった。

すると、「岩崎さん5番診察室にお入り下さい。」と放送が掛かる。

5番診察室の掲示板には医師名は書いていなかった。

本当にいいのか分からなかったが、恐る恐る5番診察室のドアを開ける。

そこには、中年の太った医師が座っており、話し始めた。

「消化器内科の林です。どうぞ、座って下さい。奥さんもどうぞ」

予想外の言葉に診察室前に座っていた理佳を呼んだ。

二人は、椅子に座る。

もう一度、名を語る。


「院長の林です。」

二人は顔を見合わせ驚く。

「君達の事は中島から聞いたよ。彼の手紙では、二人の思いに沿った、医療をお願いします。」

と書いてあった。

「カルテを見ました。かなり状況は悪い。中島の情報を見ても、肺、肝臓の転移が考えられる。今日は、胸、腹部のCTを行います。それと骨の転移も考えられるので、骨のシンチグラムを行ないます。」

医療用語が飛び交い良く分からない。


林「要するに、今の転移の状況を知っておく必要がある。思っていたより進行が早そうなので」

俊「入院も必要ですか?」

困った様子で話し始める。

「極力、入院しない様に治療を考えますが、状況によっては入院が必要となります。言いづらいのですが、外来で治療を続けていても、最後の1、2ヶ月は、入院になる可能性が高いと思う。家での治療って手もあるが・・・」

俊「家での治療?」

林「在宅で看取りを行なう。ただそこまでやれる医師がいればだが、かなりの頻度で家に足を運べる医師が必要であり、それに対応出来る訪問看護師等の条件が必要」

俊「そんな事してくれる医師って、実際いるんですか?」

林「中島がやると言っている。」

俊「えっ?」

理佳「中島先生と、この前あったばかりなのに・・・いくら奥さんが同じ病氣で亡くなったからと言っても、ここまでしてくれるのは?」

林「奥さん?」

理佳「はい」

林「中島は奥さんって言ってたのか。でも奥さんでは無いよ」

ますます分からなくなった。

林先生は話を続けた。


林「同じ病気だったのは、息子さんだよ。それも同じ位の歳で病氣が分かり、挙式を半年後に控えていたんだけど挙式を中止し結婚はしなかった。最後は伊豆の病院で息をひきとったんだよ。彼は息子を結婚させなかった事をずーと悩んでいた。多分、同じ状況で結婚した君達と息子が被ってるんでは無いかな?」

理佳「では、奥さんは健在なんですか?」

林「奥さんは、もっと前に亡くなっている。息子も一人っ子だったから、今は一人だよ。」

何という引き合わせ。

理佳は、中島先生のホテルでの言葉を思い出す。緩和ケア・・・

林「とにかく、検査をして、結果を診て診察をしましょう」

二人は診察室を出て、検査に向う。


俊「中島先生が、ここまで俺達の事を心配してくれた意味が分かった気がする。」

理佳「うん」

診察室を出た後は、採血、CT等の検査を行う。

骨シンチグラムの検査では、林院長も顔を出す。

そして、一通りの検査を終え、診察室の前の待合に座った。

しばらくすると、診察室に呼ばれた。

林「結果は、あまり良くない。中島君が言ったように、肺の転移がある。骨には転移は無かった。

ただ、腹水が溜まって来ているので、更に溜まるようならば、一度抜く事も考える必要があるかもしれない。ただ、現在は感染のリスクが高い事で抜かないのが一般的になっています。


脳の転移は、前回とさほど変わり無い。

伊豆では、癌性腹膜炎だったが、今後は胸水も溜まる事での呼吸苦と骨への転移による痛み、脳転移による意識障害が考えられる。」

俊はただ林の言葉にうなづくしか出来なかった。

林「痛みも取り除く方法もありますので、これらの症状が出て来た時には、予約外でも構わないので、すぐに来て下さい。」

俊「ありがとうございます。」

林「出来るだけ入院しないで、行こうとは思いますが、通院が困難になった時に、また相談して行きましょう。」

そして、診察室を出た。

分かってはいたが、着々と死に向かって行く現実を突きつけられる。

たまに出る咳も、痛みもこの病氣であり、ずーと腹部の違和感も付き合って行くしか無いのだ。

しかし、いくら分かっているとはいえ、死は怖い。

病院を出て家に帰る間、脳裏には、死を考えてしまい、一生懸命明るい話をしようとする理佳の話も上の空になってしまう。

一度帰宅して、伊豆の土産を持ち、理佳の実家へ行くことにした。

理佳の実家は、母親しかおらず、皆に祝って貰った事、伊豆での出来事を伝えた。

夜ご飯も誘われたが、調子が今ひとつ優れなかったので、そのまま家に帰った。

家に着くと俊の携帯に着信が入る、高崎からであった。

高崎「ちょっと寄ってもいい?19:00ぐらいになっちゃうけど?」

理佳にその事を伝えて

俊「いいよ。一緒にご飯食べる?」

高崎「なんか、買ってくよ,勿論二人の分もな。

じゃあ後でね。」

言いたい事だけ言い電話を切った。


ピンポーン


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