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神様へのプレゼント  作者: 鈴月桜
第7章 新婚
27/43

中島医師

翌日の朝、海を眺め日の出を食い入るように眺める。

理佳「綺麗」とつぶやく。

ここに来て、自然の素晴らしさを実感する。

俊「景色もいいけど、朝食に行こうか?」

理佳「もう、ムードが無いんだから」

二人で笑う。

ちょっとした事も楽しい。

本当に結婚して良かった。


朝食を食べ終え、部屋に戻る。

今日は、水族館などの観光名所を廻るプランを考えていた。

昨日の夜から、腹部がたまに痛くなる。我慢出来ない痛みでは無いのだが、食事を食べると気持ちが悪くなる。

新婚旅行は、何としても無事に終わらせたい。理佳には分からないように、必死に平常を装う。


ホテルより水族館行きのバスに乗る。

水族館に着くと理佳は、はしゃぎまわるのだが、テンションを合わせようと頑張るがテンションを上げる事が出来ない。

ちょっと息が苦しくなり、ベンチに座る。


異変に気付いたのか、

理佳「具合悪いの?」

俊「何か疲れが出ちゃったみたいで、走るとちょっと苦しい。」

理佳「ごめんね。ちょっとはしゃぎ過ぎちゃった。」

俊「もう大丈夫。さあ行こうか」

と歩き出す。

しかし、2,3歩歩くと気持ちが悪くなり、トイレに向かう。

トイレで嘔吐し、理佳の所に戻る。

「大丈夫?一回ホテルに戻ろうか?」

俊「ごめん。楽しみにしていたショーも観れないで・・・」

理佳「俊の方が大事だから、気にしないで」

俊「また来ようね。」

理佳「うん。約束だよ。」

二人はホテルに戻る為、タクシーに乗る。

タクシーに乗っている間も腹部の痛みが治まらない。

そして、ホテルにタクシーが着き、タクシーを降り様と、地面に足を降ろして、立ち上がる瞬間、激痛が襲う。俊はその場にうずくまる。

理佳は走ってロビーまで行き、救急車を要請、そして、俊の所に駆け寄り、

「俊、大丈夫」


救急車が到着して、救急車の中に運ばれる。

救急隊に俊の病状を伝える。

救急隊は、内容を聞き病院を選定して受け入れの確認を病院にした。

受け入れ許可をもらい、救急車が走り出す。

俊の意識はあるものの、腹部が痛いせいか目を閉じ安静にする。たまに痛みが襲うのか、顔をしかめる。

救急車が止まり、病院の救急治療室に運ばれ、医師の診察を受ける。


「消化器内科の中島です。大体の病状を聴きました。熱も38°あるので、検査をしてから、再度、診察をします。」

医師の容姿は、少し白髪があり、年齢は50歳を超えている様に見える。年齢からするとベテランの域の医師である。

中島医師の指示でレントゲン、血液検査等を行ない、再度、医師の診察が始まる。

中島医師「癌による腹膜炎ですね。白血球も高値であり、炎症を示すCRPという検査の値も高値です。腹水も溜まっていて、入院が必要です。炎症が治まれば退院出来ますが、肺に病変があり、詳しい検査を行う必要があります。」


俊「何とか、今日だけでも帰る事は出来ないでしょうか?多分、この旅行が私の最後の旅行になると思うので、出来たら帰りたいんです。」

俊の病状を大体理解しているが、医師としては、これだけ炎症が強いので、ショック症状を起こす危険性もある患者を見過ごす事は出来ない。ただ、人として何とか帰してあげたい。胸のレントゲンを診る限り、転移と思わせる所見がある。彼が思っている以上に死期が早まっている。


ただこの病気は・・・・

本人の余命を考えると、何とかして本人の意思を尊重させたい気持ちの方が強くなっている。

中島医師「では、これから点滴をするので、状態を観て考えましょう。」

俊「分かりました。」

隣の診察室のベッドで横になり、点滴を受ける。

しばらくすると、中島医師が近づいて来て話し掛けてくる。

中島医師「何処の病院にかかってるのか、教えてもらっていいですか?

後で、ここで行った診療内容を送るので」

俊は病院名を伝える。

中島医師は、びっくりした様子で

「私も去年まで、そこにいたんですよ。」

とだけ言って、隣の診察室に戻って行った。

ベッドで横になって点滴を受ける俊の横には、理佳が座っている。

点滴も半分位に達する。

理佳「俊、無理しないで。今日は、ここで入院して明日帰りましょう。」

俊「本当にこれが最後の様な気がして。

旅行の途中、こんな事になっちゃったけど、二人の一生の思い出を作りたい。だから、今日だけは入院したく無いんだ。」

理佳「ただ、先生がダメと言ったら、入院してね。」

俊「分かった」

点滴をしている間、たまに表情が歪んだが、点滴の半ばを過ぎ、表情が和らぐ。

そして点滴が終わる。


多少、痛みが治まった気がするが、あまり格段に良くなった感じでは、無かった。

半分、帰る事を諦めていた。

そして、点滴を終えた事を聞き、中島医師が近づく。

中島医師「ホテルに帰ってもいいですよ。ただし、ホテルに帰っても点滴をしてもらいます。いいですか?食事は、食べれそうなら、摘まむ程度で食べてもいいですが、点滴にも栄養剤が入っていますので、無理に食べないでもいいですよ。」

俊「??? ・・・・はい」

よく分からなかったが、ホテルに戻れるならと思い、返事をした。

ホテルの部屋番号等を伝え、ホテルにタクシーで戻った。

ホテルに着き、フロントに救急車等で騒がせた事を謝罪した。

さすがに温泉には行けず、敷いてあった布団に横になる。


俊「理佳、ごめんな」

理佳「何言ってるの。今、横に俊が居るだけで満足だよ。」

しばらく寝てしまい、目が覚めると予定してあった食事の時間となる。

今日は、バイキングでは無く、ホテル内にある日本料理店を予約していた。

店に着き、座敷に通され指定されたテーブル前に座る。

食事が運ばれ、理佳は美味しそうに料理を食べる。理佳の喜ぶ姿を観ているだけで、心が安らぐ。

理佳「食べれないの?」

俊「少しづつ摘まんで、楽しんでるよ。やっぱり、この落ち着いた雰囲気が料理をより美味しくさせるね。勿論、理佳が前に居るからだよ。」

と話す。

理佳「よろしい」

楽しい食事が終わる。

そして、部屋に戻ろうと歩いていると、大きなバックと点滴スタンドを引いた年配の男性が近づいて来た。

先程受診した、中島先生である。


中島「これから点滴するよ。」

俊は、すぐに状況を理解出来なかった。

一緒に部屋に向かう。

部屋に入ると、俊を寝かせ、聴診をしてから点滴を始める。

中島「これから2時間以上掛かるから、奥さんは温泉に入って来れば?」

俊「そうすれば、俺は入れるか分からないから」

理佳「うん、じゃあ行って来るね。」と支度をして部屋を後にした。


俊「先生ありがとうございます。」

中島「特別だよ。」と笑いながら話す。

俊「すいません。」

中島「新婚?」

俊「一昨日結婚しました。」

中島「エッ!よく決心したね。」

俊は、互いの両親が二人にしてくれた事を話す。

中島「じゃあ新婚旅行?」

俊「はい」

中島「じゃあ、私も二人の役に立てたかな?」

俊「はい、本当に感謝してます。ありがとうございます。」

中島「本当は、もっと前に痛くなった事があったでしょう。」

俊「すいません。度々痛みが出てました。」

中島「痛みを無くす方法もあるので、早めに病院にかかるんだよ。」

俊「分かりました。すいませんでした。」


すると中島は立ち上がり

中島「ちょっと、ホテルを一周して来るから、ゆっくり寝てて」

俊「分かりました。」

中島はそう言うと部屋を出た。

するとエレベーター前に設置してある、ベンチに腰掛ける。

しばらくすると、エレベーターから理佳が降りて来た。

中島は、「岩崎さん」と理佳に声を掛ける。

まだ、岩崎さんと言われても実感が無かったが、中島先生がこっちに

向かって話し掛けて来たので、呼び止めたのを理解した。

理佳「はい」

ベンチの横を指差しながら、

「ちょっと座ってもらっていいですか?」

理佳はうなづき、横に座る。

中島「酷な事を言う様だけど、いいですか?」

不安そうに返事をする。

理佳「はい」

中島「多分、本人が聞いているより、余命は短いかもしれない。

肺にも転移があると思う。あと調べていないが、肝臓の転移も考えられる。」

理佳「余命は、どれ位ですか?」

中島「私の経験上、2ヶ月くらいかと思う、ただ、進行具合にもよりますが、年を越せないかも知れません。私の妻も同じ病気で亡くしたので、他人事のような気がしない。

妻を亡くし、妻が好きだった伊豆に家を買い、こっちに移り住んだ。」

理佳「奥さんは?」

中島「半年前に亡くなった。ただ岩崎さんと違い進行性膵癌では無かったので、この職業柄、いくらか心の準備も出来ていた。」

理佳「余命の事、主人には伝えたんですか?」

中島「本人にはまだ伝えていない。この旅行が本人の言うとおり、最後かもしれない。」

理佳「分かりました。

この1ヶ月色々な事があって、こんな事言ってはいけないんですが、慣れてしまいました。ただ、余命が何ヶ月であろうと1日1日を大切に彼と過ごし、後悔しない事だけ考えてます。」

中島「そうですね。それがご主人にとっても良い事だと思います。

あと脳に転移があると聞いていますが、場所によっては怒りっぽくなったりと、普段と違う感じになる事があるけど、それは病気が悪さをしているだけなので、本人のせいでは無いからね。」

理佳「色々ありがとうございます。」

中島「もし万が一、看病に疲れたり、家で見れなくなった時は、私に電話して下さい。ウチの病院には、緩和ケア病棟と言うものがあるので、利用して下さい。」

理佳「どんな病棟なんですか?」

中島「これから来る痛みを取りながら、最後を迎える病棟と思って下さい。ただ、東京にも何カ所かありますよ。」

理佳「私は病院の事とか、病気の事とか分からないので、助かりました。」

中島「では、先に部屋に戻ってて下さい。」

理佳「分かりました。先に行ってます。」

中島は、少し時間を空けてから部屋に向かう。

中島が部屋に入る。

「点滴終わりましたか?」

俊「もうすぐ終わります。」

痛みが和らいだのか、元気に答える。

そして点滴が終わり、中島が部屋を出る準備を始める。

俊「先生、本当にありがとうございました。」

中島は部屋を出て行った。


理佳「具合はどう?」

俊「大分良くなった。」

理佳「中島先生って、凄くいい先生だね。」

俊「うん。本当にいい先生で助かった。今日は、大浴場に行くのは辛いから部屋のお風呂にでも入ろうかな。」

理佳「そうだね。」

俊は部屋の浴室に入って行った。

少し経って、浴室から声がする。

「理佳」

何かあったのかと思い、浴室に走り寄り、浴室のドアを開ける。

俊「一緒に入ろう」

と笑顔で話す。

俊「アパートは狭いから、こんな時では無いと一緒に入れないから」

理佳も病気の事は心配だったが、一緒に浴室に入って行った。

そして、二人は新婚旅行最後の夜を過ごした。


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