新婚旅行
皆を見送り家に入る。朱莉が洗い物等をしてくれたおかげで、ソファーで落ち着く。
俊「本当に大学に入って良かった。hopeの仲間も出来たし、そして何より理佳と再会出来た。こんな病気になって、理佳には本当に申し訳ないと思ってる。ただ、残り少ない人生を理佳と共に生きて行けるのは、本当に俺は幸せだなと思う。
理佳、愛してるよ」
「俊、私も愛してる」
そして、二人は床に就く。
次の日の朝、昨日は何だかんだと忙しく、疲れていたのか遅く起きた。
理佳「あっ!今日伊豆に行くんだ。」と言って、慌てて起きる。
そして俊も起き上がり、理佳を後ろから抱擁して、「おはよう」と理佳の体を反転させ、軽くキスをする。
理佳「おはよう。俊も用意しないと」
と言って旅行の準備をする。
慌てて準備をしてアパートを出る。
二人の新婚旅行が始まった。
今日は、ホテルまでのんびりと電車に揺られて行く事にした。
朝ご飯も食べていなかったが、駅弁を食べて行きたかったので、我慢して電車に乗り込む。
熱海まではJRで行き、熱海からは踊り子号に乗って下田まで向かう事にした。
俊「以外と早く行けるんだね」
理佳「半日くらい掛かるのかと思ったけど、早いね。」
俊「熱海で駅弁買おうか?」
理佳「うん」
二人は熱海まで向う。途中から座れたので、景色を眺めながら電車に揺られる。
昨日の事等を話していると、あっという間に熱海に着く。
踊り子号が出発するまで、駅弁を買いに売店に行く。
金目鯛の入った弁当が目に入り、二人とも同じ弁当を購入した。
踊り子号のホームのベンチで、電車が来るのを待つことにした。
まだ10分程あるので、俊がトイレに行く。理佳はベンチに座り俊を待つ。
携帯を取り出すと、朱莉からLINEが入っていた。
[緊急速報!理佳が望めば子作り考えるって、岩崎君が言ってたみたいだよ。理佳には内緒だって言ってたみたいだから、知らない振りしてね。
では良い旅を]
エッ本当に、理佳は心の中で聞き返した。
何度もLINEの内容を読み返す。
自然と笑みが溢れる。
すると、俊が戻って来て
「どうしたの?」
理佳「何が」
俊「何か顔がニヤついているみたいだから」
理佳「朱莉から旅行を楽しんでとLINEが来たから」
俊「なんだって?」
理佳「ナイショ」
と笑みを浮かべた。
電車が到着し、座席に座り買ってきた弁当を開ける。
理佳「美味しい」
俊「本当だ美味しい。電車で景色を観ながら食べると余計美味しさが増すね。」
理佳が何かを言わそうと
「景色だけ?」
と聞いてきた。
何の事か分からず「うん」と答えると、理佳が
「私は景色もそうだけど、俊と食べると美味しさが増すよ」
と、ちょっと不機嫌そうに話す。
慌てて「俺も」と修正した。
理佳「じゃあ許してあげる。」
と和気藹々と会話が弾む。
駅弁も食べ終わり景色を観ながら、行く時に買った伊豆の情報誌を2人で見て、明日の予定を考える。
まだ、予定が決まる前に電車が下田の駅に到着した。
チェックインは、3時なので、まだ1時間以上ある。下田駅周辺で観光出来る場所を探す。
駅を降りると時計台が目に入り、街の景観を際立たせる、下田の街を歩いて行くとレトロ調の街並みが続き、何処か懐かしい雰囲気の街並みに旅行に来た実感を感じる。
街の中に足湯があり、2人で足湯につかる。
理佳「この街並みを観ながら足湯につかると、なんか旅行に来たって感じでいいね。」
俊「うん」
時間に追われる都会と違い、ここでの時間は、ゆっくり流れている錯覚を起こす程、心も癒される。
あっという間に1時間が過ぎ、駅に戻り、泊まるホテルの送迎バスに乗る。
ホテルに着き、ロビーでチェックインをして、部屋に案内される。
部屋に着くと荷物を降ろし、海が一望出来るベランダに出る。
理佳「うわー綺麗」
と、その景色を観てはしゃぐ。
駅のレトロな景観、そして自然が作り出す景色と、普段感じない美しさに感動さえ覚える。
しばらく海を眺めて、二人は浴衣に着替え、早速温泉に入りに行く。
お風呂は男女共同じ階にある。先に出たら、近くにあるゲームセンターで待ち合わせをする事にした。
俊「俺、温泉は長風呂だから、待たせたらごめんね。」
と理佳に伝える。
理佳は女風呂に入ると、大浴場、露天風呂、打たせ湯、サウナと色々な種類のお風呂があり、俊も長湯と言っていたので、全種類のお風呂を満喫した。
お風呂を出て、浴衣に着替え、備え付けてある、ドライヤーで髪の毛を乾かす。
ちょっと長過ぎたかなと思いながら、女風呂を後にし、ゲームセンターに向う。
ゲームセンターに俊は来ておらず、ゲームセンター近くの椅子に座り俊を待とうとした瞬間、辺りが騒がしくなる。
ゲームセンターの前を担架を持った救急隊が横切って、ホテルの従業員の指示を受け、男子風呂の中に入って行った。
エッ俊?
ゲームセンターを飛び出し、男子風呂の入口に向う。
駆けつけた客が
「なんか意識が無く、危ないらしいよ。」と噂をする。
しばらくすると、救急隊が男子風呂から、患者を担架に乗せ出て来た。
理佳「俊」
と救急隊に向かって駆け寄った。
救急隊の担架に乗っている患者を覗き込む。
俊では無かった。
ホッと胸を撫で下ろす。
すると、浴衣に帯を体に回しながら、いかにも慌てて出て来たのが分かる客が男子風呂から出て来た。
俊である
俊を見つけ、極度の不安から開放され、涙が自然と溢れ出す。
俊が理佳の元に駆け寄り、涙を流す理佳を近くのベンチに座らせる。
俊「多分理佳が心配してるんじゃ無いかと思って、急いで出て来ちゃった。」
理佳「頭が真っ白になっちゃって、足はガタガタ震えるし、どうしたらいいか分からなくて、震える足で担架で運ばれている人を覗きこんで、俊では無かった事を確認した時に、俊を見た途端、涙が止まらなくなっちゃった。ごめんね。」
俊は理佳の肩を引き寄せ、胸に顔を埋めさせ、しばらくその体制で落ち着くまで時を過ごした。
大分落ち着いて来たので、部屋に戻る。
部屋に戻り、夕食までのんびり部屋で過ごす。そして指定した夕食の時間となり、指定された場所に足を運ぶ。
夕食はバイキング形式となっており、大きな会場も賑わい、家族連れが多いせいか子供の声が会場に響きわたる。
二人は料理を取りに向い、海産物を中心に料理を乗せ、テーブルに戻ろうとした時、俊に子供がぶつかって来た。その子供の母親であろう女性が、「すいません。」と謝罪して、子供を叱る。
この姿を見た理佳は、思わず笑う。
テーブルに着き
俊「何、笑ってるの?」
理佳「昨日のコンビニで朱莉の子供が同じ事してた。あまりにも同じシチュエーションだったから、笑っちゃった。」
俊「昨日、飲み物買いに行った時か」
理佳「うん。それにしても子供って可愛いね。」
俊「うん」
理佳は持ってきた料理を食べ終え、デザートを取りに席を立つ。
料理を残している俊に向かって
理佳「俊、もう食べ無いの?」
俊「なんか、ちょっと疲れてお腹が空かないんだ。理佳、遠慮しないで、デザート持ってくれば」
理佳「うん」
理佳がデザートを食べ終わり、賑やかな会場を後にする。
ホテルの庭には、噴水があり、そこを囲む様にベンチがあり二人は腰を下ろした。
夜になるといくらか冷えるが、食事を食べて暖かくなった身体には調度いい気温であった。
理佳「俊?」
俊「何?」
少し間を置き
理佳「私、子供が欲しい。」
俊「俺が死んでからの理佳と子供が心配」
理佳「私の愛する男性は今もこれからも俊ただ一人。俊と私の子供が生まれれば、どんな事が起ころうとも大変とは思わない。それに私達が共に生きた証になるんだから。」
理佳の熱意に押され
俊「分かった。俺は子供を見れないけど、絶対に近くで理佳達を見守ってるから。」
理佳「うん」
俊「ちょっと冷えて来たから、もう一風呂浴びて来ようか?」
理佳「あまり長湯しないでね。」
俊「分かった」
二人は一度部屋に戻り、再度温泉に浸かりに行った。
そして、温泉で暖かくなった二人は部屋に入り、電気を消す。
俊「本当にいいの?」
理佳「うん」
二人の間には何も遮るものが無く、体が一つになる。
愛の育みが終わると、二人は眠りについた。




