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神様へのプレゼント  作者: 鈴月桜
第5章 結婚
19/43

不安

救急車は入院していた病院まで搬送された。

意識は徐々に回復したが、めまいがひどく、目を閉じるしか無かった。

診察室に入ると、CT、心電図、血液検査を行い、入院となった。

検査を受けている間に理佳が病院に到着した。

朝から違和感があった腹部は、腹水の影響では無いかと言われた。腹水自体は、抜く程の貯留は無いとのことだったので、このまま様子を見る事になった。

めまいは、脳転移による虚血発作では無いかと言われた。

今まで、この様な症状は起こった事が無かったので、突然来る病魔の怖さを知った。

あのまま意識が無くなり、死んでしまったらと思うと理佳との結婚が正しい選択だったのか、激しい不安と生きる自信を失った。

病室に運ばれ、理佳がベッドの横で私の手を握る。

父は大分酒が入ってるせいか、椅子で寝ている様子、母は理佳の横に座っていた。

だいぶめまいも治まって来たので、目を開ける。

理佳の顔が映し出された。

「理佳ごめん。親に不安を与えちゃった。本当にごめん。」

理佳「そんな事気にしないで、このまま目が覚めないんでは無いかと心配しちゃった。でも、回復して良かった。」

母「じゃあ、私はお父さんを連れて帰るね。」

経過観察目的の入院なので、月曜日の状態を見て退院となる。

今日は土曜日だったが、消化器内科の医師も、脳外科の医師も病院にいたため、両科で診てもらった。

理佳「何か買って来る?」

俊「水が飲みたい。」

理佳「じゃあ買って来るね」

理佳が病室を出て、売店に向かった。

売店で水を買い、病室に戻ろうと歩き始めた時、携帯が鳴った。母からであった。入院病棟の売店は、出口の近くにあるので、一旦外に出て、電話に出た。

経過観察目的で入院になった事など伝え電話を切り、中に入ろうとした時、後ろから声が掛かる。

「大城さんだよね?」

理佳「はい。大城です。加藤さんですよね。」

加藤「はい。岩崎退院したんじゃ無かったっけ?」

顔合わせで起こった事、入院目的等を伝えた。

加藤「結婚するの?」

笑顔で理佳が答える「はい」

加藤「そうか、岩崎は本当にいい人と出会って良かった。」

理佳「中学、高校と加藤さんが居てくれたおかげで、通う事が出来たと聞いてます。これからもよろしくお願いします。」

軽くお辞儀をする。

加藤「中学、高校時代の事、話していたんだ。理佳さんの前で話さないようにしようと思っていたけど、これで気兼ねなく話せるね。」

加藤の顔が曇る

加藤「やっと、幸せになれたのに、神様も酷な事をする。何か悲しいのでは無く悔しい。」

理佳「でも、これからは、酷な事をした神様に頼む事が増えるから、神様に今は文句を言えない。何か会ったら、まとめて文句を言うつもり。」

と苦笑しながら話した。

加藤「また、岩崎に連絡するからと伝えといて。じゃあ、これから勤務だから」

と言って、中に入って行った。

俊の病室に戻る。

理佳「今、加藤さんに会ったよ。また連絡するって言ってたよ。それと結婚の事も話しちゃった。」

俊「加藤ビックリしてた?」

理佳「うん。ビックリしてた。」

俊が不安を語り始める。

「今回の件で、結婚するのが不安になった。勝手に描いていたイメージでは、徐々に悪くなるのかと思っていたけど、今回みたいに前触れも無く、急に意識が無くなる恐怖を味わったら、生きる事への執念すらも失われる。」

今の私の本音であった。

理佳「私も、さすがにビックリしたけど、尚更、早く結婚したいと思った。私達の1日の重さを実感した。」

理佳は前向きに考えてくれるのだが、今の私には心の底から同感出来ず、きっと死にゆく人と見守る人の差が出た気がした。勿論、愛してはいるが、死への恐怖が勝っている、この恐怖をコントロール出来ない。

この後、めまいがすると嘘をつき、目を閉じる。

理佳「ごめんね。辛いよね。今日は帰るね。」

と言い帰った。

1人になってからも、恐怖は襲いかかる。何事もポジティブにものを考えれない。苦しい夜となった。


苦しい夜が明け、外はカーテン越しでも分かるような晴天であった。

朝食を済ませ、再度ベッドに横になる。昨夜は、ほぼ寝れなかったせいか、横になると寝てしまった。

起きた時には、午前10:00になっていた。

TVを付け、バラエティ番組を何も考えず観ていると、車椅子を押して看護師が入って来た。

加藤「岩崎さん、診察の時間ですよ。車椅子に乗って下さい。」

加藤がわざとらしく入って来た。

上体を起こし、車椅子に乗りながら、「何処で診察するんですか?」とふざけて返答した。

加藤「青空診察室です」

と言い、私を乗せた車椅子は、病院の建物を出たところにあるベンチで止まった。車椅子のタイヤ部分を固定して、加藤はベンチに座った。

加藤「具合はどう?」

俊「大分良くなった。」

加藤「良かった。これからは、意識を無くす様な事は、あまり無いとは思うけど、色々な症状が増えて来るから、大変だね。」

俊「うん。今回の件で、何か自信がなくなっちゃった。」

加藤「それはしょうがないよ。いつどうなるか分からないんだから。脳梗塞なら後遺症が残って、歩く事も喋る事も難しくなるのに、岩崎の場合は後遺症が無く回復してるんだったら、良しとしなくちゃ。これは、普通の人だって起こる可能性がある事だから」

俊「うん」

加藤「そう言えば、大城さんから聞いたけど、結婚するんだって?」

俊「うん。でも、今回の件で迷ってる。死への恐怖が勝って恋愛感情が失われている。勿論、愛してはいるんだけど・・・」

加藤「死への恐怖は、俺も分からないけど、意識が無くなる時、幸せでいたかが、岩崎にとって重要だと思う。死を恐れていたら何も出来ないよ。難しいけど、死を受け入れないと、次を考えるのは難しいと思う。勝手な俺の意見だけど」

俊「今まで心の何処かで死なないのではと思ってたのかもしれない。それが、現実味が出た事でパニクッタのかも」

加藤「受け入れちゃえ」

俊「ひどいな。看護師が言う言葉かよ。でも、ありがとう。何か元気出た。」

加藤「でも、一番感謝しなくてはいけないのは、彼女だぞ。」

俊「分かってる。」

その後は、中学、高校時代の話で盛り上がった。

病室に帰り加藤と別れる。

昼食を食べ、TVを観ながら、面会時間を待つ。

昨日は、理佳に申し訳無い事をしてしまった。

LINEで謝ろうかと思ったが、直接謝ろうと思い、送らなかった。

面会時間と同時に理佳は来るのだが、時間になっても来ない。

おかしいと思い、面会開始時間を1時間過ぎた時、部屋に理佳が入って来た。たった1時間なのに、妙に長く感じたのだった。

理佳は紙袋を持って病室に入って来たのだが、紙袋の中には雑誌みたいな本が一杯入っていた。

俊「何が入っているの?」

理佳が紙袋の中身をベッドの上に出した。全て、アパート等の賃貸物件の雑誌だった。

理佳「何処に住もうか?」

俊「こんなにいっぱい、よく集めたね。」

理佳「私の家の駅から俊の家の駅までの大きい駅を降りて取って来た。」

今日は素直に理佳の愛情を感じる事が出来た。

二人で情報誌を見ながら、住みたい家を探した。

家は理佳の家の近くを選んだ。

駅を挟んで、徒歩25~30分くらいの場所に決定した。

私は死んでしまうので、理佳の家の近くの方が後でいいだろうと思った。言葉では「奥さんの実家の近くに住むのが夫婦円満の秘訣だと、根も無い嘘をつき説得した。

部屋の大きさは2LDKで二人で住むには、丁度良い大きさである。

それも、新築物件であり、新婚には文句無い物件であった。

理佳「後は婚姻届を提出すれば、私達夫婦になるんだね。ねえ、あなた?」

とふざけて私に話しかける。


もう17時になろうとした時、母が病室に入って来た。

母が鞄から、紙を取り出す。

婚姻届であった。父が駐車場に車を置いて来たので、ちょっと遅れて病室に入って来た。

父「びっくりしただろう。取りに行く暇も無さそうだから、持って来た」

理佳「お父さんありがとうございます。」

明日の退院の時間等を話していると、病室に理佳の母が入って来た。

私の両親にお辞儀をして、昨日の話をしている。すると理佳の父も病室に入って来た。

また、両親にお辞儀をして、同じように昨日の話を始めた。

そして、私の方を見てから、私の両親に見える様に紙を出した。

理佳父「岩崎君のご両親がいるので、丁度良かった。婚姻届を持って来たんですけど、渡してもいいですかね?」

と私の両親に話し掛ける。

理佳がさっき私の両親が持って来た婚姻届を理佳の両親に見せる。

理佳「俊の家でも、持って来てくれたのよ。」

全員で笑った。

死への恐怖も、今は忘れていた。

本当に暖かい空気が病室に充満していた。


夕食を乗せた配膳車が病棟に来たので、皆が気をきかし帰り仕度を始めた。いつもは、理佳は残るのだが

俊「理佳も明日仕事だろうから、早く帰って休んだ方がいいよ。昨日から疲れたでしょう」

理佳「分かった。今日は帰るね。」

皆が帰り仕度を済ませたので、一緒に病室を出る。病棟の出口まで皆を見送り、病室に帰る途中に配膳車から私の夕食を取って、病室まで運ぶ。ベッドに座りご飯を食べようとした時、病室に理佳が走って入って来て、私の口に軽くキスをする。

理佳「おやすみ」

と言って、また走って帰って行った。


昨日の夜とは違い、幸せを感じる夜であった。


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