望み
面会時間30分前
入院した病院は駅から10分ぐらいの所にある。
駅の改札を出て、母が病院に向かって歩いている。
すると後ろから理佳が母に駆け寄り声を掛ける。
理佳「こんにちは」
母「あら理佳さん」
二人で病院に向かう。
病院のそばにある、喫茶店前で母が止まり、
「まだ面会まで時間が少しあるから、コーヒーでも飲んでいかない?」
理佳「はい」
二人で喫茶店に入る。
母「いきなり誘ってごめんね」
理佳「とんでもないです。誘ってくれて、ありがとうございます。俊さんからは、自慢の母親と聞いていたので、お話したいと思ってました。」
たまらなく、母が涙を流す。
「そんな事言ってたの。」
母「実は理佳さんに話しておかないといけない事があるの」
と前置きを言い、昨日の医師が言った、今回の入院の事、病気の事を細かく伝えた。
理佳の目に涙が溢れる。
「まだ、確定では無いんですよね?昨日も私を一人にしないと約束したばかりだから・・
俊は絶対に約束を守る人・・・」
言葉にならない。
しばらく、その場で泣き続ける。
母「ごめんね。理佳さんには、本当の事を早く伝えた方がいいと思って、私が話すのは間違えかもしれないけど・・・」
「いえ、教えてくれてありがとうございます。俊は、この事を私に伝える事が苦痛になってると思います。」
母「本人の前で泣かない様にしないとと思っているんだけど、出来そうも無いわ。」
涙を拭う。
理佳「私も俊をみたら、我慢出来ないかも」
母「理佳さんは、良かったら行ってあげて、病気に勝つ気持ちをあげれるのは理佳さんだけだから。親の勝手なお願いでごめんね。私は落ち着いてから主人と行くから」
理佳「分かりました。本人の前で泣かない様に頑張ります。まだ確定した訳では無いので」
しばらくして、二人で喫茶店を出る。
喫茶店を出た所で別れた。
面会時間の3時は、既に過ぎていたが、泣いた跡を消すため、トイレに入り化粧を塗り直す。
トイレを出てエレベーターに乗る。
病室の前に着く。
泣かないよう、自分に活を入れて病室に入る。
「俊。来ちゃった。」
とベッドに向かう。
俊は背中を向け座っている。
ノートパソコンを見ているようであった。
背中から覗き込む様に顔も見る。
俊はタオルを目の上に当て、動かない。涙を見せない様に必死にタオルで顔を隠していた。
この姿を見て、理佳も涙が溢れ出す。俊の背中に顔を埋める。
理佳「俊、何も言わなくてもいいよ。一緒に頑張ろう。絶対大丈夫だから」
俊「理佳ごめん」
理佳「まだ分かんないでしょ。変な事言わないで」
背中に顔を埋めたまま、しばらく泣き続ける。
どれくらい経ったのだろう。
少し落ち着き理佳が話し始める。
「さっき、お母さんから全部聞いちゃった。絶対大丈夫だよ。」
タオルを目から離し
「うん」
とだけ言葉を返す。
病室のTVに電源を入れ、会話も無くTVを見る。
内容等、全然分からず何かが動いているとしか感じない。
俊が重い口を開く
「さっき理佳が言った様に、なんか自分でも重症って感じがしないんだ。きっと、検査の結果、命には別条無いと言われるのでは無いかと、思っている。」
理佳「そうだよ。絶対に大丈夫だよ。」
「怒らないで聞いてね。死ぬのは怖くないんだ。ただ、理佳と別れるのが死ぬより辛い。」
理佳「縁起でもない事言わないで」
俊「怒らないでって言ったじゃん」
理佳「だって・・・」
俊「不安がっても、しょうがないから、この一週間病気を忘れよう。会社にも行かないとクビになっちゃう」
理佳「会社は休んだら」
俊「やっぱり、そうしようかな」
と笑いながら話す。
二人は病室を出て、病院のすぐ外にあるベンチに座る。
外に出ると気持ちのモヤモヤが、いくらか晴れる。
会話の無い時間も多かったが、理佳と居ると気持ちが落ち着く。
俊「じゃあ、病室に戻るね。」
理佳「じゃあ、私は帰るね。」
俊「分かった。気をつけて帰るんだよ。」
帰り間際、理佳が近づいて、私の頬に軽くキスをした。
「じゃあね。」
と手を振り、帰って行った。
そして、翌日、胸の造影CTを行い退院した。




