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「マセフィーヌ姉上」

 

「ドラノラーマ」

 

「王国一行は先ほど出立しましたわ。最後尾が」

 

「そう。見ものだったわね」

 

「イリーダの機転のおかげで楽しませてもらえましたわ」

 

他国ならば許されないが帝国では帝国のためになるのならという理由で侍女や使用人にもある程度までの裁量が許可されていた。

 

さすがに国宝を持ち出すことはできないが誰も着ない衣裳を持ち出すくらいは許される。

 

「ふふふ、あの衣裳がまさか帝国一の遊女の纏ったものだとは夢にも思わないでしょうね」

 

「姉上?」

 

「あの衣裳が遊女の物だと王国に知らせなさい。できれば庶民の間が良いわね」

 

緑の鳥の羽をあしらった扇を口元に当ててマセフィーヌは笑いを堪える。

 

いつものように給仕をしていたマーロは形が変わった鉄扇を戻そうと力を籠めるが曲がったままだ。

 

話を聞いているだけのレオハルクも手伝って真っすぐにしようとするが結果は同じだ。

 

「懇意にしている吟遊詩人にお願いをしましょう」

 

「あの娘が遊女かもしれないと噂が立てば王家は遊女を次期王妃にするということになりますわね」

 

「なるほど、すでに神の名の下に婚約が成立している。帝国の血を引く公爵家令嬢との婚約を破棄してまで庶民の娘、いえ遊女との婚約を選んだということですわね」

 

「そう。帝国に対する侮辱ですわね。類を見ないほどに」

 

寵姫として召し抱えたことは少ないが帝国だけでなく他の国でもあった。

 

それでも商売としている以上は立場というものを弁えていた。

 

だけど今回は弁えていないという話よりも国を挙げての侮辱だ。

 

それを見逃すほど甘くはない。

 

「それで次はどうしますの?これでイヴェンヌの婚約破棄は叶いましたわ。次は姉上の番なのではなくて?」

 

「連合軍をお兄様に提案しますわ」

 

「連合軍?」

 

「ええ、お兄様には先頭を切っていただくつもりです」

 

剣を磨いて待っていた獅子戦鬼は飢えた獣の状態だ。

 

敵の息の根を止めるまでは止まることを知らないだろう。

 

「準備が必要ですわね」

 

「お兄様には心置きなく剣を揮っていただきたいですもの。そのためにはドラノラーマに協力をお願いしますわ」

 

「もちろんですわ、マセフィーヌ姉上」

 

イヴェンヌは王家から自由になった。

 

身分としてはロカルーノ王国の公爵家令嬢だが帝国側が入国を許可している以上は不法滞在ではないから王国は帰国を促すことはできない。

 

問題はドラノラーマだった。

 

ロカルーノ王国の側妃である以上は貴族令嬢と違い帰国を命じられれば従うほかない。

 

それに王国が気付けばだが一か月も帰国しないままでも放置だったことから気付いていない可能性が高い。

 

気付かないのなら好都合とばかりに黙っていた。

 

「王も第一王子もそっくりでしたわね」

 

「姉上は初めてでしたものね。見た目もそうですが性格も似ていますのよ」

 

「そうね。意識することなく相手を貶める言い回しなどは本当にそっくりだと思いましたわ」

 

「王と接することが少ないものの血というものは争えないものだと実感しましたわ」

 

「わたくしは少しだけ罪悪感を持っていましたのよ。本当に借りを返したい方はいないのだもの。だけど直接会って吹っ切れましたわ。わたくしたちウィシャマルク王国が借りを返す相手はロカルーノ王国ですわ」

 

「姉上のお心のままに」

 

小国と侮られたままで引き下がるわけにはいかない。

 

小国と雖もプライドはある。

 

「それはそうと貴方がたさっきから何をなさっているの?貸してごらんなさい」

 

二人がかりで戻そうとしていた鉄扇をマセフィーヌは受け取ると簡単に真っすぐにしてみせた。

 

「殿方がそのように非力で国を守ることはできませんよ」

 

鉄扇が真っすぐになった代わりに男性二人の心にはヒビが入った。


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