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勢いよく扉が開いたことよりも音に驚いて振り返る。

 

「何よ!」

 

「申し訳ございません。急ぎの支度が必要となりますので多少の無礼をお許しください」

 

「い、いいわよ」

 

運ばれた衣裳の豪華さに目が眩んで機嫌を少し持ち直させていた。

 

王国で着ているドレスでもここまで豪華な物はなかった。

 

イリーダは瞬時にベラの性格を見抜いてしまう。

 

「ご婚約の品としてこちらをお贈りさせていただきたいと思いますが宜しいでしょうか」

 

「いいわよ。綺麗だし」

 

煽てられたり褒められたりすることを好むということに気付いた。

 

同じような性格を持つ者を見てきたマリーも気付き、イリーダと視線だけで会話を成立させる。

 

「帝国のドレスの着付けは立ったままに行います。こちらにお立ちください。お嬢様」

 

「そこに?座ったままではダメなの?」

 

「立ち姿が最も美しくなるように着付けなければ座ったときは醜くなります。それでも宜しければ」

 

「分かったわよ、ここね」

 

「では、髪を結い上げるのと着付けと化粧を同時にいたしますので動かないようにお願いいたします」

 

何の声かけもなくイリーダはベラのドレスを脱がせ襦袢を羽織らせた。

 

そこからはマリーの出番だった。

 

きつく帯を締めながら何枚も重ねていく。

 

神業的な早さで帯を締めてしまいベラが文句を言う暇をまったく与えない。

 

「ちょっときつくしたらお腹の子が」

 

「王国のドレスと違い腰回りではなく胸回りで締めますので大丈夫でございます」

 

「髪が痛いわ」

 

「髪の毛一本たりとも乱れぬのが美しさとなります」

 

イリーダとマリーの連携に圧倒され言われた通りに濃い化粧を施すエリシアは無言で紅を重ねる。

 

最後の仕上げに着物を帯で締めるとイリーダは満足そうに頷いた。

 

いくら着崩れないようにすると言っても痛みを我慢するほどではない。

 

それでも帰るまでに着崩れても直せる侍女がいないと判断してのことだ。

 

「完成にございます。出立の馬車まで先導いたします」

 

「ちょっと鏡くらい見せなさいよ」

 

「鏡でございますか?こちらには鏡はございません」

 

「なら持って来なさいよ」

 

「出立に間に合わなくなりますが宜しゅうございますか?」

 

「分かったわよ」

 

長い距離を歩くためのものではないから兎に角重い。

 

裾はマリーとエリシアで持っているが歩くのはベラ自身だ。

 

「ルシャエント様があちらでお待ちでございます」

 

「そう」

 

「わたくしどもは帝国侍女でございますので失礼させていただきます」

 

「ならもう良いわ」

 

「裾をお手にお持ちになりお歩きくださいませ」

 

イリーダはさりげなく一人で歩かせることにした。

 

エリシアはマリーに押さえられていて口出しできない。

 

一人だけ豪華な衣装に身を包んだベラは王国一行の中で浮いていた。

 

帯の解き方はイリーダからエリシアに教えられていた。

 

そこを解かない限り他はどんなことをしても解けないようになっている。

 

歩くのに苦労しているベラに気付いたルシャエントが駆け寄った。

 

「ベラ」

 

「ルーシャ様!見て帝国のドレスよ。とても綺麗でしょ」

 

「あぁとても綺麗だよ。だから時間がかかっていたんだね」

 

「ごめんなさい、お待たせしてしまって」

 

「良いよ。さぁ行こう」

 

来た時と同じ先頭に王と王妃が居て最後尾にルシャエントとベラがいる。

 

だからこのベラの衣裳のことは伝わらなかった。

 

ようやく揃ったとして王国一行は出立した。

 

列は長いため最後尾が帝国を出るまでには時間があった。


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