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昼過ぎに華美ではあるが統一性のないパレードを引き連れてロカルーノ王国一行が到着した。
新しい衣装だということがすぐに分かるくらいに皺ひとつなかった。
最後尾には第一王子とベラが仲睦まじい様子で馬に乗っている。
総出という皇帝命令が発布されたから庶民は家に引きこもって緊急事態に備える。
もともとが戦争のときに発布される命令だから問題はない。
店に至っては看板が仕舞われている。
それがおかしいことと思わずに、まるで自分たちが正しいとばかりに皇居の門を通った。
その様子を玉座より見ていたジョゼフィッチは冷めた目と共にため息を吐いた。
「ドラノラーマ」
「何でしょうか、兄上」
「俺から声をかけるのが正解なのか、それとも待つのが正解なのか」
「正解というのでしたら待つのが正解ですけれども」
それだけでドラノラーマが言いたい次の言葉が分かってしまった。
向こうからすればパレードを率いて来てやったのだから歓迎しろというところだろう。
帝国側からは誰も頼んでいないというところだ。
今回はマセフィーヌの総出という命令があったから皇太后以外の皇族とドラノラーマにイヴェンヌも帝国の正装をして出迎えた。
いつもは騒ぐロックベルもきちんと正装しておとなしくしていた。
「こたびの訪問、感謝する」
「我がロカルーノ王国はカンディアルニア帝国との同盟をますます強固なものとしたいと考え、帝国の血を持つ令嬢を第一王子の王妃に据えることを約束することを誓おう」
歓迎をされているかどうかはさておいて訪問に対して感謝されたのなら歓迎に対して謝辞を述べるのが一般的だ。
それを後回しにして訪問の主旨と要望だけを伝えるのは不躾な行動だった。
そんな当たり前のことを議論しても時間だけが過ぎるから無かったことにする。
「・・・その覚悟しかと受け取った。皇族の血を持つイヴェンヌ嬢を王妃となり国母となることを我が帝国は誇りに思う」
白々しい誓いに一瞬反論をしかけたが飲み込んで形式的な返答をする。
謁見の間の壁には帝国の貴族が勢ぞろいしていた。
特に説明をされることなく集められた貴族たちは茶番を見せられることにうんざりとしていて帰ろうかと思案していた。
そこに動きを見せたのがおとなしくしていたルシャエントとベラだ。
皇帝の言葉の中に聞き逃せないことがあったからだ。
「お待ちください、皇帝」
「ん?」
「待て、ルシャエント」
「いいえ、待ちません」
国の王の位置にいる者同士の話を遮るなど不敬も良いところである。
普段なら帝国側も見逃すことなく処罰する。
だが今回は処罰することが目的ではなかったから話を続ける。
「今大事な話をしている。黙っていなさい」
「黙りません。これは僕とベラの一生に関わる大切なことです」
「だから黙っていろと言っている。おいルシャエントを下がらせろ」
おそろしく無駄な親子喧嘩に終止符を打ったのは扇というには不適切な鉄扇を持ったマセフィーヌだった。
静かに通る声で一言で黙らせた。
「お待ちなさい」
「マセフィーヌ」
「ジョゼフィッチ皇帝、発言の許可をよろしいかしら?」
「許そう」
「ロカルーノ国王、そちらはご子息とお見受けしますけれど合っているかしら?」
国交がなく顔を合わせることが無くとも王族皇族の似顔絵くらいは目にする。
顔を知らなくても名前くらいは憶えておく。
マセフィーヌという名前を聞けば大抵の者は押し黙るし膝を付く。
「ああ合っているが今は皇帝と対話をしている。小国の妃が口を挟まないでいただこう」
「わたくしは皇帝に発言の許可をいただきましたわ。それともウィシャマルク王国のような小国の妃とは口を聞くことができないほど狭量なのかしら?ロカルーノ王国の王は」
「・・・・・・私の倅だ」




