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「確かに兄上は皇帝としての素質は兄妹の中で一番低いですが、歴代の皇帝と比較しても決して劣るわけではないのですよ」
「時代が悪かっただけのことですな。皇族が絶対的な権力を持っていても許された黎明の時代なればジョゼフィッチ陛下の短慮は歓迎されたでありましょうから」
黎明時代と呼ばれ内乱が絶えなかったころならばジョゼフィッチは英雄となれた。
もしかすれば神と崇められるくらいにまでは簡単になれたかもしれない。
または暗黒の時代となった他国との戦争だけがすべてだった時代にも。
「兄上は生まれてくる時代を間違えられたようですね。扇子の向こう側の思惑を探るような戦は兄上が最も苦手とするところです。多少は出来るようになったようですが甘いですわね」
「出来る妹姫がいる兄は辛いでしょうな。このマーロ、一人っ子で心底良かったと思っております」
「わたくしは時々ではありますが貴方を縊り殺したくなります」
「何と!ですがドラノラーマ様に殺されるなら本望でございます。ささ一思いにどうぞ」
ドラノラーマの傍で跪き、首をさらけ出して目を閉じる。
このどこまでもドラノラーマ主義は他者には理解されにくかった。
それを理解した令嬢がマーロに嫁いだ。
利害関係の一致というほどではないが、令嬢は当主の仕事がしたかった。
家にいたときも普通の令嬢と同じことはしていたが当主の仕事をしていたわけではなかった。
経験もないのにさせてくれる男性はいないため諦めるしかなかった。
もしかすれば辺境の地の当主に嫁げば可能だったかもしれないが身分が邪魔をした。
そんな時に、マーロと出会った。
マーロはドラノラーマのためだけに生涯を捧げたいが当主となれば難しい。
そんな二人の思惑が一致し、婚姻を結んだ。
「さて冗談はここまでにしておきましょう」
「冗談だったのですか」
「死する時は共に、という約束でしょう。先にお前が死んでどうするの?」
「それもそうでございますな。ドラノラーマ様の御手にかかり逝くという甘美なる夢も捨て切れませぬが」
マーロの妄想を容赦なく切る。
「兄上の短慮は今に始まったことではありません」
「はい」
「あとはマセフィーヌ姉上が何をしたいのか。これを考えることです」
「マセフィーヌ様が嫁がれた国とロカルーノ王国に隣国という以外の接点は無いと思われますが」
「わたくしも同じ考えよ。でもマセフィーヌ姉上がわざわざ手紙を送って来た理由が分からないのよね」
皇帝から言質は取ったから問題ない。
あとは未だに謎なままのマセフィーヌの目論見だ。
手紙では、夫婦そろってウィシャマルク王国から出て来るということ。
ロカルーノ王国に借りを返さなければならないから手を出すなということ。
何としてもジョゼフィッチ皇帝を黙らせろということだ。
「兄上を黙らせろなどと簡単に言ってくれると思いましたわ」
「よく言質を取ったとドラノラーマ様の手腕に脱帽いたしました」
「あのマセフィーヌ姉上が動くというのは解せないですわね」
「ウィシャマルク王国は小国ではありますが治世は穏やかでございます。領土が欲しくなったのではありませぬか?」
「領土を?兄上ではあるまいし、マセフィーヌ姉上が領土を欲するかしら?」
「ネックレスやドレスよりも他国のマナー本を求められたマセフィーヌ様でございます。領土を欲されても何ら不思議ではございません」
「不思議よ。何一つ理由になっていないわ」
他国のマナー本と領土が同列の扱いになるのは不思議でしかない。
マーロの頭の中が心配になるが他国では分からない悩みというものがあるのだろうと納得する。




