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「今までは、そうだとしても先ほど王様は婚約者であると言ってくださいましたわ」
「なら、今までのことを謝ってください。婚約者のフリをしていただけの偽物が王税を浪費していたんだから謝ってください」
「わたくしが何に使ったというのです?花を贈られたことが問題ですか?」
「そんな可愛いものじゃないわ。ドレスや宝石よ。社交界になるたびに新しいドレスを作らせてるじゃない。ドレス一枚で庶民が何年暮らせると思っているのですか!」
ドレス一枚の値段は確かに庶民なら暮らせる金額だ。
一か月ほど。
何年も生活するのは無理だ。
それにドレスを買い替えるのは服飾に就いている庶民のためだ。
最新の流行りの色のドレスを着ることが許されているのは公爵家だ。
次に、一年から二年後に侯爵家。
そして、三年から四年後に伯爵家。
続いて、五年から六年後に子爵家。
最後に、七年から八年後に男爵家。
九年から十年後に庶民が着ることになる。
ドレスは時期が終わると懇意にしている一族や親族に下げ渡していく。
自分の家で作ることもあるが、税収の少ない貴族のための制度とも言える。
また、色で爵位が判断出来ることから無用な争いを避けることも出来る。
王族は、何物にも染まらないという意味から黒を着用している。
他の貴族が黒を着用するのは喪に服すときだけだ。
そんな中でベラという令嬢はライムグリーンのドレスに王家の紋章の入ったアクセサリを身に着けていた。
本当なら公爵家の者しか身に着けない色を堂々と着ていた。
王家の紋章は貴族ですら身に着けることはできない。
戦時中ならば敵と味方を区別するために着けることもあるが今ここは戦場ではない。
ある意味では戦場とも呼べるかもしれないが、王家の紋章を着けるのは王家だけだ。
「わたくしの金銭感覚が正しければ、およそ〇.〇八年ほど生活出来るのではないかしら?それでわたくしが無駄に税を使っていることに謝罪を申し上げる必要がどこにあるのです?」
「庶民が無駄遣いして生活しているわけないです。何が〇.〇八年ですか。馬鹿にしないでください」
「わたくし、確認をしたいのだけど、貴女は貴族令嬢では無いのですね?」
「わたしはちゃんとベラと名乗りました。名前を呼んでください。貴族令嬢じゃなければ何だって言うんです。商会の娘が悪いですか」
今回の婚約発表パーティの招待客は全員貴族だ。
下位貴族も呼ばれているが、それは王と王妃の趣味であり、爵位を持っているからルール上は問題ない。
通常は呼ばないが。
つまりベラは庶民であり、今回のパーティに王と王妃にすら呼んで貰えていない身分だ。
「イヴェンヌ、君が非を認めて謝るのを待とうと思って黙っていたけど、論点をすり替えてしまうのは問題だよ。ベラが君の非を指摘してくれているんだ。素直に謝るべきだ」
「ルシャエント様、お間違えの無いようお願いいたしますわ。わたくしは王族ではありませんので、国に納められた税をわたくしの一存で使うことは断じて出来ませんわ」
「それもそうだな。なら君が手にした流行りのドレスは誰かが国税を使って作った物なのだろう」
「わたくしは、生まれてから一度も王家から花以外の贈り物を貰ったことはございませんわ」




