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「生まれてから一度も自由の無かったイヴェンヌに束の間の自由くらい許しても良いのではありませんか?」

 

「それで俺はいつまで許したら良いと言うのだ?」

 

すでにジョゼフィッチの頭の中ではイヴェンヌは帝国のための一つの駒でしかない。

 

いかに王国に籍が残っていても自分が望んでいるのだから、その通りになると思っていた。

 

その危険な思想は誰にも止められることはなかった。

 

「これはマセフィーヌ姉上に報告ですわね。何も分かっていらっしゃらない。帝国という大国に生まれ、権力というものを(ほしいまま)にしてきた報いですわね」

 

「ドラノラーマ、答えよ」

 

やられっぱなしのジョゼフィッチではない。

 

妹たちよりは劣るが上に立つ者といての威厳は持ち合わせている。

 

それでも大局を見る目は誰よりも劣る。

 

どうしても目先のことに目が行ってしまう。

 

「わたくしは帝国を出て、ロカルーノ王国に嫁いだ身です。兄上と雖も命令は出来ませんわ」

 

「一体、何を企んでいる」

 

時が許されるならドラノラーマだけではなくマセフィーヌもクーデターを起こし政権を強奪していただろう。

 

それが成功してしまうくらいには資質というものを持ち合わせていた。

 

「おかしなことを申されますわね。わたくしの望みはイヴェンヌが普通の令嬢として過ごすこと。あとはマセフィーヌ姉上から待つようにと言われたから待つだけのこと」

 

「またマセフィーヌか」

 

「企みを知りたいのでしたらマセフィーヌ姉上にお聞きになられるのがよろしいかと思いますわ。それと兄上は待つということを覚えたほうが良いですわね。急いては事を仕損じると言いますわ」

 

策略を巡らすという点では、ドラノラーマ、マセフィーヌ、エルビエーヌの三姉妹に敵う者はいない。

 

力技で事を進めている皇帝を陰から支えてきたのは三人だ。

 

言葉で勝てる者はいない。

 

三人には扇をパチリと鳴らすだけで意を汲み動く人間が一定数いる。

 

そしてそれはジョゼフィッチと袂を分つことを躊躇わない者たちだ。

 

マセフィーヌには他国にもいるから性質が悪かった。

 

「相変わらずだな」

 

「兄上が短気なだけですわ。今までのことも帝国という巨大な権力があったからこそ成しえたこと。ゆめゆめお忘れになりませんように」

 

「ドラノラーマ」

 

「何でございましょう」

 

「女帝になりたかったか?」

 

「何を今更なことを。当たり前ですわ」

 

末っ子でありながら長子のジョゼフィッチの能力の無さは火を見るよりも明らかだと思っていた。

 

ジョゼフィッチの神経を逆撫ですることしかしない幼少期を過ごしている。

 

おそらくはかわいげのない子どもだった。

 

「帝国の弱体化というものに俺も利用されたのだな」

 

「一番素質が無いのが兄上でしたから仕方ありませんわ」

 

ジョゼフィッチは策略というものを苦手にしていた。

 

何か問題があれば力で抑える。

 

我慢というものも苦手だ。

 

頭で考えるより体が動く。

 

「その点で言えば、ヒュードリックは素質があるんだな」

 

「ありますわね。動くべきときを間違うことはありませんわ」

 

「今回の王国に対することはドラノラーマに一任しよう」

 

「心配なさらなくても獅子戦鬼の出番はありますわ。姉上のことですから国盗りくらいはすると思いますし」

 

「それは本当か?」

 

「えぇ同盟を結ぶなどという甘いことはなさらないでしょうね」

 

「それなら剣を磨いておかねばなるまい」

 

戦で生きることしか出来ない男はいる。

 

ジョゼフィッチは戦でしか生きられない。

 

細かい腹の探り合いは出来なくもないが、本当に出来る者からすれば赤子のような者だ。

 

もうすでに頭の中には剣のことしかないのだろう。

 

武器庫に向かってしまった。


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