65
「あとは、庶民の娘はどうする?王子は連れていくと言いかねんぞ」
「そのことは連れて行くことが決定しておる。王妃が見定めるとか何とか言ってしまわれた」
「王だけでも面倒なのに王妃までも面倒な」
「ええい、面倒なことだ」
「庶民の娘が貴族の娘と同じことができるとは思わんが王妃が命じたのなら無碍にはできまいて」
「どうして王家には碌でもない者しかおらんのだ」
「言うても始まらん」
「我らがしっかりしておれば国は傾かん。必要なのは何かあったときに首を差し出す役目を持つ者がいることだで」
「王にはその役目を担っていただけるのなら多少の豪遊は目を瞑ろうて」
「娘の服はどうする?婚約者ではあるが王命の婚約者であるからの。必要なものは実家から用意させるが商会の娘と言っても裕福ではないのであろう」
「服の一着なら良いが、色はどうする?」
「イヴェンヌ嬢は公爵家の色を着ておったな」
「婚約者が黒を纏うことは許されないからな」
「庶民だと、今は何色だ?」
「十年も前のことを覚えているわけなかろうて」
「針子なら覚えているだろう。十年前の色のドレスを作れと命じておけば良かろう」
「待て、十年も前の色となると布が無いやもしれんぞ」
「確かに、庶民でドレスを仕立てる者などいないからな」
「それなら自分で持って来させるか」
「多少の手直しをすれば良いだろう。何か飾りくらいは贈ったら体裁は整うて」
「新しいドレスを仕立てるより安くて済む」
「王と王妃の服は豪勢にしなければならないからな」
「娘の親に持ってくるように連絡をするか」
「勝手に仕立てる分には何も言わんしな」
「いくら王が認めた婚約者でもな」
「王妃も認めたぞ」
「まだ認めておらん。帝国への対応を見て決めるという曖昧なことだ」
「認めるもなにも王が命じたのだから撤回できるのも王だけだろうて」
「だが王妃が娘に王妃としての器なしと言えば王も右へ倣えくらいはすると思うがの」
「王は王妃にべた惚れだからのう」
「パレードになんぞ連れて行かなくても良いのに」
「大人しく留守番をさせておいてくれたら良かったのに」
「謹慎の間に監禁しておいてくれたら良いのに」
「部屋に戻ってからは贅沢三昧であるからのう」
「たしかこの時期に冬の珍味を求めたのだったな」
「無いものを金で買うなど無理なことをしてくれた」
「遠方から運ばせていると言って時間を稼ぐほかあるまいて」
「欲しいものはすぐに手に入ると思っているからな」
「とにかく第一王子は適当に話を合わせて金は使わせんようにしなければいけないな」
「無論。消え物なら良いが庶民の娘に貢ぐようなことはあってはならん」
「貴族の娘ならともかく庶民の娘では他の庶民の娘が施しを受けようと浅ましくも思うかもしれんからな」
「庶民の娘には釘を差しながら多少のいい夢を見せておけばよかろう」
「それにパレードは王と王妃が主役であろう。たかが婚約者が目立ってもらっては困るからな」
「列の最後に加えておけば良かろうて」
「面倒なことをしてくれる」




