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応接間の前には当たり前だが兵が守っている。
王の許可がない者は通ることができない。
「王妃様、ただいま王はご会談中でございます。お部屋にお戻りください」
「わたくしは王妃です。王に会うのに他の貴族より劣る立場であるのか考えなさい」
「お立場は王に次ぐ方であることは存じておりますが、ご会談を妨げることが出来るお立場では無いことも存じております」
「貴様、王妃様を何と心得ている。恥を知りなさい」
王妃付きの侍女が扉を開けようとするが阻止される。
扉を叩くこともせずに開けることは無礼であるから侍女の行動としてあり得ない。
「どうぞ、お戻りください」
「王妃様がわざわざ足を運んでくださいましたのよ。王への取次をするのが兵の仕事でしょう」
「もう良いです。わたくしがここに来たことが緊急を要することだと分からぬのですか?」
侍女を下がらせて直接命じることにした。
兵であっても王妃の言葉を完全に無視することはできない。
「緊急を要するのでございましたら伝令から先触れがあったと思われます。王妃様も伝令をお持ちであると認識しておりますが間違いでしょうか」
「伝令はおりますわ。ですが、令嬢の身で走ることは、はしたないこと。わたくしが足を運ぶ方が良いと思ったまでです」
「では、執務室にてお待ちください。王に報告いたします」
「そう、早急になさいね」
優雅にドレスを翻して執務室に向かう。
王妃を執務室に誘導した兵は王に知らせることなく業務に戻る。
どんなときであろうと王妃が自分を優先させようとするのは、いつものことだ。
大した用事でもないと判断し後回しにする。
そうかからない内にオズヴィルムが部屋を出てきた。
扉を閉める前に王の独り言が聞こえた。
「小言だけを言う無能な男が公爵家では我が国が侮られてしまうではないか」
静かに扉は閉められた。
独り言はオズヴィルムだけではなく兵たちの耳にも届いた。
「・・・・・・長年、王家に仕えたカレンデュラ公爵家を愚弄するとは王も耄碌されたようだ」
「王も王妃も贅沢をするのが義務であると思っておられる節がございますからね」
「先代王も問題だったが、現王も問題であるな」
「滅多なことは口になされますな」
「王は喜んで処罰してくれる。公爵領は王家直轄領の半分に値する財源を生み出しているからな。早々に直轄領に加えるさ」
長年をかけて大きくした領地は歴代の王からの信頼の証と思っていたが、今期の王は金の卵を産む雌鶏としか映らないようだった。
王が生まれたばかりのイヴェンヌを急いで婚約者にしたのは持参金として領地を献上させるためでもあった。
今まで妥当な理由が無いからカレンデュラ領は王家直轄領に加えられなかっただけのことだ。
オズヴィルムは早々に立ち去ることを決めて城を出てしまう。
王が命じたことを守るためだ。




