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「ようやく食事が出たが、またスープとパンだけか。要望書を書いたのに何をしているんだ」


「そうね。お風呂にも入りたいのに」


「父に手紙が届くようにしなければいけないな」


誰宛の手紙であってもまともに届くことはないということをルシャエントは気づかなかった。


手紙というものは検閲されるものということを知らないベラは庶民でも手紙がきちんと相手に届くのに王城では届かないということに疑問を持っていた。


「手紙を配達する人が間違えたのではないかしら?」


「それならば厳しく罰を与えなければならないな。僕だったから良かったものの」


「すべてのことに目を向ける時間をお義父様が与えてくださったのよ。課題に気づけば部屋を出る日も近いのではないかしら?」


自分たちが置かれている現状が理解できていない。


これは課題ではなく懲罰として部屋に入れられて忘れられているだけのことだ。


兵や使用人も追っての指示がないから最初の指示を守っているだけのことでルシャエントのことを考えてのことではなかった。


「便箋の数も少なくなってきたな。これも差し入れさせよう」


「今までは周りの方がされていたのでしょう。きっと王となるためには広い視野が必要なのだと気づくことなのよ」


「ベラはさすがだな。王妃教育を受けていたわけではないのに僕を支えてくれる。これからも一緒にいてくれ」


「もちろんよ」


この部屋を出たら幸せな生活が待っていると信じている。


どんなことがあってもルシャエントが第一王子である限りは贅沢な幸せが待っていると疑わないだろう。


「お義父様はお忙しいでしょうから同じものをお義母様にも出してはどうかしら?」


「そうだな。ベラの服などは女性が選ぶ方が良いだろうからな」


「結婚式が楽しみだわ。私、ベールを姪っ子に持ってもらうと約束しているのよ」


「それならば約束は守らないといけないな」


自分たちの要望だけを書いた手紙を食事が差し入れられる扉から外に出す。


これで問題が無いと信じ切ってだ。


まだ見ぬ結婚式の話に盛り上がる。


ドレスの意匠や招待客に料理と話題は尽きることがない。


いつものように出てきた手紙を護衛の兵が受け取る。


内容如何では鍵を持つ兵を呼びに行かなければいけない。


中を検めて緊急性が低いと判断し交代の兵が来るまで待機した。


「父上と母上に手紙を渡したのだろうか」


「王子の手紙を無かったことにすることは無いと思うわ。手紙がきちんと届くようにとも書き付けたのでしょう?」


「あぁ、封筒にしっかりと書いたさ。次の食事のときに返事があるか」


「そうよ」


部屋の中には娯楽と呼べるものは何もない。


二人いても会話をし続けるのは限界がある。


どんな結婚式を挙げるかは決めている。


次は二人で住む家の話だ。


ベラが二人だけで住みたいという希望から王城の敷地に家を建てることを計画した。


これは結婚式を挙げてからのことであるから便箋に見取り図を描くだけにする。


「あと新婚旅行というものがしてみたいわ。二番目のお姉様が旦那様に諸国を回る旅に連れて行ってもらったと手紙をくれたのよ」


「新婚旅行か。たしか王国より西方の国にそういう仕来りがあるのだったな」


「お父さんとお母さんは仕事が忙しいと言って旅行にも連れて行ってくれなかったのよ」


小さな商会を運営しているが慎ましく生きるのに精一杯の状況だ。


ベラの二人の姉は他の商会へ嫁いだ。


器量よしと評判で妻にと乞われて嫁いで行った。


少し年が離れていたこともあって甘やかされて育ったベラは家の仕事を手伝うということからは無縁の生活をしていた。


「本でも差し入れるように言わねばならないな」


「歴史書とかなら許して貰えるわ」


「そうだな」


ベラにはルシャエントを手玉に取って玉の輿に乗ろうという考えはない。


あるのは自分たちのために愛ゆえのことだと信じていることだけだ。


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