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「お待ちしておりましたわ。ヒュードリック様」


「手短にいこう。ルイーナ」


帝国の公爵家令嬢でありヒュードリックの側室の一人だ。


側室たちの間に子どもは一人もいないが最も有力視されているのがルイーナだった。


側室のなかでヒュードリックが唯一直接会話をする令嬢だからだ。


「そうですわね。わたくしのサロンでもよろしくて」


「良いだろう」


サロンまでの間は終始無言だ。


気の利いた言葉の一つもなく静寂だけが支配する。


「ヒュードリック様からお聞かせくださいますか?」


「まずは、イヴェンヌ嬢が受け入れてくれるのなら皇妃にしたいと思っている」


「まぁ、それはおめでとうございます」


ルイーナはヒュードリックが心から望んだ者と添い遂げることを願っていた。


それは側室となる前から変わりはない。


ルイーナにはヒュードリックへの恋心というものは初めから持ち合わせていない。


一番近いのは幼馴染や戦友といった感情だった。


「だが王国でのことが片付いていない」


「風の噂でお聞きした婚約破棄ですわね」


「あぁ庶民の娘も婚約者になったからな」


「説明をなさるのが面倒だということは分かりますが詳しくお聞きできませんと困りますわ」


取り出した扇で口元を隠しながら小さく笑う。


苦言を漏らしても返ってくる答えは分かり切っていた。


「必要か?」


「いいえ、わたくしの護衛から全て聞いておりますわ」


野心だらけの側室たちの上を行くためには情報は誰よりも早く手にする必要がある。


ルイーナは後宮からほとんど出ることなく正確に情報を手にしていた。


イヴェンヌが婚約破棄を宣言されてから帝国に来るまでの流れ全てを知っている。


里帰りという里帰りをしなかったドラノラーマが帰って来た。


それだけで帝国では一大事となり理由など知れ渡ってしまう。


「ヒュードリック様の側室たちに関してはお任せくださいませ。すでに手を打つ用意はしております」


「すまないな」


「わたくしは公爵家令嬢ですもの。彼女たちを率いることくらい簡単ですわ」


「俺が側室のもとに通えば簡単な話になるのだろうな」


「ですが、子どもが出来たと公言されると厄介ですわ」


ヒュードリックが一度も閨を共にしていないから子どもを盾に皇妃の座を奪うことも出来ない。


最初の頃は別の男性と関係を持ったあとに側室として嫁いで皇妃になろうとした令嬢もいた。


初夜すら通わないため不貞が分かり修道院に送られた。


子どもに罪はないということで実家が引き取ったりもしたが大半は孤児院に送られた。


「今のままにするしかないか。これからも頼む」


「お任せください。それと懐妊しましたのよ」


「誰が?」


「わたくしが」


「誰の子を?」


「わたくしの背の君の子を」


「おめでとう」


「ありがとうございます。それで相談がございますの」


ルイーナの子はもちろんヒュードリックの子ではない。


それを分かっていての祝福だ。


ルイーナは初めからヒュードリックの子を産むつもりは全くない。


そのことはルイーナが後宮に入るときにヒュードリックと取り決めをしていた。


「イヴェンヌ様が皇妃になられましたら子と共に降嫁させてくださいませんか?」


「大きく出たな」


「最初は子どもをヒュードリック様の子だと認めていただくだけで良かったのですが、イヴェンヌ様が帝国に来られて事情が変わりましたのよ」


ヒュードリックが自分の子だと認めて跡継ぎであると認知してもらうだけで良かった。


ルイーナの一族に皇族の血は流れていないが帝国が建国されたときから皇族と共にあった貴族の流れを組む。


歴史を考えれば十分だった。


「ルイーナとイヴェンヌ嬢の血筋では皇族の傍系であるイヴェンヌ嬢の方がやや強いからな」


「ええ、ですが帝国の公爵家と王国の公爵家では同じ公爵家でも帝国の方が強い権力を持ちますもの。イヴェンヌ嬢を王国の令嬢として軽んじる者が出てもおかしくありませんわ」


イヴェンヌが皇族の傍系であっても育ったのが王国である以上は下に見られやすい。


イヴェンヌの血筋は有力ではあるが優勢ではない。


帝国の内情に明るいルイーナを推す声は多いだろう。


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