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ルシャエントとイヴェンヌは婚約者だ。
権力としてはイヴェンヌが第一王子であるルシャエントの上位になるが、婚約者になった場合は対等になる。
イヴェンヌがルシャエントに命令できないように、反対もできなくなる。
ルシャエントがお願いをすることができるが、今のように一方的に命令することはできない。
「・・・公務にお忙しい王妃様の代わりに側妃様がわたくしに王妃教育を施してくださっていたのですが間違いでしたの?」
「そうなのか?次期王妃候補にするためだろうが次期王妃は決まっている。ご苦労だったな」
イヴェンヌの嫌味が全く通じず言葉通りに受け取るルシャエント。
イヴェンヌの眉間に皺が寄るのと同時に、側妃の眉間にも皺が寄った。
この公務というのは、後宮に籠ることをそれとなく意味している。
王は王妃をことのほか愛しており、外交などの気難しいことは家臣や側妃に任せきりだ。
威厳を保つために最低限のことはしているが、しなくて良いならしないというスタンスだ。
この婚約発表パーティに要職に就いている者は呼ばれていない。
何かあれば苦言を呈されるからだ。
あくまでもパーティを好きなように楽しみたいという王と王妃の思惑だ。
「ですから側妃様と一緒に外交の任に当たらせていただいていましたのよ。先月もガンディアルニア帝国に参っておりました」
「そうか。ご苦労。それでいつまで上座に座っているつもりだ?いくら僕が寛容だからと言って見下ろされることを容認はしないぞ」
「そうでございますか。では上がって来ては如何でしょう?」
「イヴェンヌ、君に指図される覚えはないよ。降りろと言ったんだ。貴族令嬢なら従うべきではないか?」
「つまり、わたくしはルシャエント様と対等の立場の婚約者では無いということでございますか?」
「何を今さらなことを言っているんだ?婚約者は僕の隣にいるベラに決まっているだろ?婚約者の紹介の挨拶をしようと思ったら遮ったのだろ?」
ついに言ってはいけない一言を言ってしまった。
真っ青だった顔を白くして王妃は気を失った。
それを王妃付きの侍女が介抱する。
側妃と側妃付きの侍女は冷めた目をさらに送った。
「王様、わたくしは婚約者ではなかったようでございます。わたくしの勘違いにより王族の方と同じ上座に座っていましたこと深くお詫び申し上げます。咎めは受けます故に一族には御目溢しを賜りますようお願いいたします」
「ま、待て。お前は第一王子の婚約者で間違いない。私が二人の妃を設けているように次期王である第一王子にも二人の婚約者がいる」
「それは初耳ですわ」
「それはそうだろう。たった今、決まったことだ。王命であるが故に間違いない」
王は、心より愛する王妃の願いと溺愛し目に入れても痛くない第一王子を次期王にするためなら小賢しいほどに頭が回る。
それ以外では平凡以下であるから家臣は何故、活かせないのかと疑問に思っていた。
「わたくしは婚約者で間違いないのでございましょうか?」
「うむ、間違いない」
王も第一王子が次期王になるために公爵令嬢が婚約者である必要性を理解していた。
理解していながら第一王子の行動を諫めないのだから無能であるのは間違いなかった。
「しかしながら、わたくしはルシャエント様からは次期王妃候補の身であるようですから場違いですわね。席を立たせていただきますわ」
「う、うむ」
王の許可とも言えない許可を貰い、下りようとした。
そこに待ったをかけたのはルシャエントにしがみついていたベラという令嬢だった。




