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「ありがとう、ロックベル」
「ロックで良いよ。イヴ姉が食べたいの教えて」
「そうね、あの包んだものは美味しかったわ」
「これだね。僕も好きなんだ」
ロックベルはいつもならば俺と言っている。
完全に猫を被っている状態だ。
それでもイヴェンヌを受け入れているということでヒュードリックは何も言わなかった。
そこに酔っ払ったアーマイトがグラスを持って近づいてきた。
「あら?新しい側室の子?」
「アーマイト皇太后」
「違うの?」
「四代前の女帝の姉君の直系の方です」
「へぇ難しいことは良いわ。それよりも名前は?」
ヒュードリックが言っていたのはこのことだ。
皇太后でありながら礼儀も何も持っていない。
食事で酔っ払うほど酒を嗜むなどご法度だ。
「初めまして、皇太后様。わたくしはイヴェンヌ=カレンデュラでございます」
「イヴェンヌちゃん、ね。わたしはアーマイトよ」
「アーマイト」
奥の方のテーブルからアーマイトを呼びつける男性がいた。
先代皇帝のマジョルードだ。
「はぁい、あなた」
「こちらに珍しい果実酒を用意した。飲むと良い」
イヴェンヌのことは忘れて食事に戻ってしまう。
自由で気ままに振る舞う。
「驚いただろう」
「えぇ驚きましたわ。先にお話しを伺っていましたから大丈夫でしたが」
「嫁いで来た時から変わらないらしい」
「まぁ」
「そのせいでマセフィーヌ叔母上はマナーに厳しくなられた」
「誰も諫めませんでしたの?」
「マジョルード先帝が何度か諫めたらしいが進言した貴族の反対にあって断念したらしい」
それからというものマジョルードは子どもを作り、後宮に閉じこもる生活に慣れさせようとした。
自由に外出しようとする妃を出来ないようにしたのだ。
マジョルードにとっては宛がわれた妻だが大切にはした。
アーマイトも令嬢なら一度は夢見るお姫様の生活が手に入れられることに喜んで慣れていった。
アーマイトが社交界に興味を示さなかったから後宮に閉じ込めることが可能だった。
「アーマイト皇太后は内政にも興味を示さなかったからな。諸外国には知られることはなくて済んだ」
「そうですわね。アーマイト皇太后のお話は跡継ぎを生まれたあとに病に臥せってしまわれたと聞いておりましたから」
「あの通り酒を嗜めるほどに元気だがな」
「なぁなぁ話終わった?最後の一個食べて良い?」
大人しくしていると思えば食べていた。
他の子どもたちも食べていたからか残っていなかった。
満足げな顔で食後のお茶を啜っていた。
「・・・ロックベル」
「ふふ、どうぞ」
「やった」
美味しそうに最後の一個を食べ切る。
これだけ綺麗になくなれば料理人も喜ぶだろう。
他のテーブルも同じように完食されていた。
「一緒に食べるのは楽しいですわね」
「騒がしいだけだと思うがな」
「イヴェンヌちゃん、一緒に飲みましょ」
「アーマイト皇太后、イヴェンヌ嬢は未成年ですよ」
「そうなの?ならお菓子が良いかしら?」
「今から料理人に作らせるのですか?皇太后」
「もう、ヒュードリックは細かいわね。料理人は料理をするのが仕事なのだから関係ないでしょ」
料理人にも勤務時間というものは存在する。
アーマイトは男爵家令嬢であったことから皇族の中で誰よりも身分が低い。
孫にあたる子でもアーマイトは逆らえない。
それでも本人が何も気にすることなく振る舞うから誰も注意しない。
注意しても改善されたことがないというのが一番の大きな理由でもあった。




