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「王の無能さには参りましたな」
「こたびの婚約破棄などという失態を誤魔化すとは」
「王が親なら第一王子も子ですな。謹慎の間で食事をきちんと摂られていると」
「わしは風呂を所望したと聞きましたぞ」
「何と!あのように水を多量に使う贅沢を求めたとは知らなんだ」
ドラノラーマが戻るまでの間に老中たちの他愛無い話が進んでいた。
王や王妃の無能さを知ってはいるが、老中自身も無能であるということには気づいていなかった。
「食事も遅れただけで配膳係を首にせよという手紙があったそうだ」
「それだけではないようだ。食事を豪勢にしろ、着替えを用意しろ、ベッドを変えろ、王族に対する待遇ではないという不満が書かれていた」
「本当に第一王子は何を考えているのやら」
「何も考えていないだろうよ。ろくな教育をされておらんからな」
ろくな教育を黙認し続けた老中が言える言葉ではないが、ここでは王も王妃もいないから好き放題言っていた。
自分たちの好きなように政を進められるから掲げる神輿は愚かであればあるほど好まれた。
先代王も今期の王もそして、次期王も自分たち好みの王になってくれると思っていたが自分たちが思っている以上に愚かだった。
これでは甘い汁を吸うことが出来ず、後始末だけで終わってしまう。
さらにルシャエントとベラの間に子どもが出来れば、継承権の低い子どもが生まれ、跡継ぎ問題に発展する。
平民を側妃にするために貴族の養子にしたことは過去の歴史を紐解けば何度もあった。
それでも継承権を持つことが万が一にも無いように男爵位になる。
「今回のことで帝国に睨まれたら王も王妃も終わりだろうよ」
「二人の首を差し出すとして、第一王子は人質として帝国に行ってもらいますかな」
「新王には、王の甥御のオーギュスタ様が妥当ではないかな」
「年齢で言えば、フィリョン様が先であろうよ」
「フィリョン様は聡くていらっしゃるからな」
「如何にも」
「その点、オーギュスタ様は軍に入団を希望されておる」
「内政は我らにお任せくださるということか」
愚かな王を担ぎ上げた結果が帝国との蜜月の終わりを迎えることになったが、老中は問題に気付いていない。
ルシャエントよりも先に生まれた王子がいるから王も王妃も後見となるイヴェンヌを何よりも求めた。
幸いだったのは、王の兄弟が権力に固執する性格ではなく、その子どもたちも王座を求める性格ではなかったことだ。
消極的な者であっても扱いづらいが、この際は仕方ないとも言える。
「穏便に世代交代をするには帝国に攻め入って貰うのが良いかの」
「あそこの帝王は戦争好きだからな。半年もすれば攻め入ってくれよう」
いつまでも他力本願な老中で、これで国が傾かないのはドラノラーマの手腕のおかげだった。




