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「王様」
「何だ?」
「昼食のお時間のあとは上位貴族との会談でございます」
「うむ、そこにカレンデュラ公爵は来ておるのだろう」
「はい、登城しております」
部下の報告に満足気に頷くと、会談室へと向かう。
ただ問題は本来の会談の時間よりはるかに早く公爵家当主が登城したことだ。
「うん?会談はあと二時間あとだろう」
「一刻も早く王様に会うためだそうです」
「まぁ良い心がけだ」
娘が王城に軟禁されてから王と顔を合わせたのは数えるくらいだ。
それも娘の話題にならないように王が場を設けてのことだ。
さらに上位貴族の会談であっても、カレンデュラ公爵に味方をしそうな貴族が多いときは呼ばれていなかった。
娘のことを話題にされることを避けるためだが、公爵家を呼ばないということで邪推する者も多かった。
「おそらくは、朝一番で伝令を送ったことで早く来ているのではないかと思われます」
「何だと?いつも意見するだけで何一つとして言うことを聞かない奴が命令に従っただと?」
命令に従ってはいた。
だが、娘を返して貰うために王に忠言を申していたのも事実だ。
王としては婚約者となったイヴェンヌを王城で育てることで誠意を見せていたのだが、方向性を間違っていた。
「早く来ているのなら帝国との話し合いの結果を聞こうではないか」
「応接間に通しています」
「うむ」
カレンデュラ公爵が登城しているのが朗報を持っていると信じて疑わない王だ。
だが、そんな都合のいいことは聞けないと家臣は思うが忠告はしない。
「ご苦労であったな。カレンデュラ公爵」
「王に報告したいことがございます」
「そう堅苦しいのは止せ。して首尾は?」
「はい、妻と娘が側妃様に付き帝国に向かいました」
「まだるっこしい。早う言え」
「いえ、報告は終わりました」
「何?」
カレンデュラ公爵としては事実だけを報告した。
報告の仕方は、わざとではあるが、それ以上の進展はなく、王が望む情報も持っていない。
時間より早く登城したのは今までの王家の仕打ちを確認するためだ。
二人きりで会おうとしなかった王がカレンデュラ公爵と二人になっているのだ。
この好機を逃すつもりはない。
「その程度の情報で終わるつもりか?」
「王が何を望んでいらっしゃるのか見当も付きませんが、私としては余すところ無く報告した次第でございます」
「貴様、王家に逆らうつもりか?」
「逆らうも何も私たち夫婦から娘を取り上げ、王城に監禁したのは王が最初でございますぞ」
「監禁とは人聞きの悪いことだな。言葉を慎め、オズワルム」
「何も間違ったことは申しておりませんよ。それと私の名はオズヴィルムです」
王の記憶力では家紋と家名を一致させることが精いっぱいだった。
だから王は個人名をほとんど覚えない。
全員をずっと家名と爵位で呼ぶ。
その弊害で個人名を呼んでも間違えてしまう。
「娘の婚約発表パーティで婚約破棄を告げられたと聞き及びまして、事実を確認したい」
「何を言っている。息子のルシャエントは恙なく婚約者を迎えた。安泰そのものであろう」
「娘は王の道具ではない。私たち夫婦の娘だ。王の子、ルシャエント殿下を王にしたいのなら自力でなさると良い。娘は返してもらう」
「黙って聞いておれば、貴様、王家との契約を反故にするつもりか」
「その契約を反故にしたのは第一王子が先と記憶しておりますが、間違いですかな?」
婚約を破棄する旨を先に宣言し、それを慌てて取り繕い、婚約者が二人という事態を作った王命だ。
いくら箝口令を布いたからと言って、当事者の家の者が知らない訳が無かった。
ましてやイヴェンヌに付いていた侍女マリーは公爵家の人間で一部始終を見ている。
全て筒抜けになっている。




