42
「さて、皆さん、急いでドレスを仕上げますわよ」
「そうね。普段着のドレスは一度袖を通した物は着ないという王妃様ですもの。何着用意しても問題ありませんものね」
「それにしても、このお菓子、どういたします?」
「懇意にしています孤児院に寄付するつもりでしたわ」
「それでは、わたしも」
南国の飾り飴をお土産にするほど、他国の文化に無知ではない。
そんなものを持って帰れば、家から叱責されてしまう。
いつも扱いに困る土産を用意する王妃だが、国の王妃であるから誰も何も言わない。
誰かの忍耐によって成り立つ王妃のお茶会だ。
「いつものことですけれども王妃のお茶会は疲れますわね」
「えぇ珍しいものや美しいものという抽象的な依頼ですものね」
「好みというものを教えていただかなくては探しようがありませんもの」
「以前にはお好きなものをお聞きして出入り禁止になった商会の娘もいましたし」
初めての顔合わせのときには必ず聞く質問だ。
間違って好みではないものを持って行くことのないようにするための配慮だ。
それは貴族たちも分かっていて質問に答える。
暗黙の了解というもので誰も咎めたりはしない。
「王妃は下々の者は王妃の好みが分かって当然と思っていらっしゃるようですわね」
最初は好みではなく珍しいもので好きな色の探りを入れた。
話ながら好きな色や食べ物を聞き出し、他の商会の令嬢と相談して品物を用意した。
同じ品物を用意した者も出入り禁止になったことがある。
気まぐれで気分屋である王妃を満足させるために奔走することになる。
「契約茶園から新茶が届きましたのよ。みなさま如何かしら?」
「ミップル様のお茶はいつも美味しいですもの楽しみですわ」
「では二時間後に我が家にいらしてくださいな。このドレスの完成品を家の者に急がせなくてはなりませんもの」
「お茶請けには帝国のお菓子をお持ちしますわ。新作を仕入れましたの」
王妃御用達というブランド力はいつの時代も捨てがたい。
家の繁栄のために令嬢たちは結託していた。
「王妃という権力で潰した商会の数は両の手では足りないのですけれどね」
商会は横のつながりも大事にする。
潰れるのが商才のなさ故のことなら仕方のないことと割り切れるが理不尽なことなら手を貸すこともする。
王妃の声で潰れた商会にいた人は路頭に迷わないように雇い入れた。
「自分が伯爵家令嬢だったということをお忘れになっているようですわね」
貴族の家に出入りする商会は事前に家令などから好みのものや入用なものを聞いておく。
そのせいで自分のことを良く理解しているや趣味が合うなどと勘違いをする子息令嬢も少なくない。
貴族としての教育を受けていくうちに全貌を理解していく。
「商会は何も庶民の集まりではありませんのよ」
貿易を円滑にするために貴族の令嬢を娶ることもある。
下手をすれば全ての貴族と親戚だということも場合によってはあり得てしまうのが商会だった。




