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料理長が作ったのは、特別な材料は使っていない。
王城が飼っている鳥の卵でもなく、竹砂糖でもない。
普通の鳥の卵に、普通の砂糖だ。
人間、思い込めば良いように思う。
「とても繊細で軽いですわね」
「家で食べるのより美味しいですわ」
「王妃様のお茶会で食べるお菓子はいつも楽しみですわ」
「そう言ってもらえて良かったわ。新しいお菓子を考える楽しみになるもの」
新作を考えるのは王妃ではない、いつも料理長だ。
お茶会のテーマや花や料理を考えるのは招待する側であり、ホステスだ。
これで力量が試される。
王妃という立場があるから周りが代打を務めているが、普通の貴族ならば自分でする。
王妃となる前は伯爵家令嬢なのだから出来そうなものだが、成人してすぐに嫁いだため経験などは皆無だ。
それでも家のパーティなどを知っているはずだが、伯爵家令嬢であり、教養についても並程度であったから親戚筋の男爵家に嫁ぐことが内々に決まっていた。
家としても力を入れて教育はしていなかった。
周りも王妃にお茶会の作法など改めて教育する考えもない。
嫁いで求められる知識は諸外国との関係や王が不在のときに執務を代わるための内情だ。
お茶会を開いて優雅に暮らすのが王妃の勤めではない。
それが分かっているからこそ側妃が全て代わっていた。
今、側妃がいなくなれば執務は滞るばかりだ。
王も最低限は行うが、基本は王妃との時間を優先するため仕事をしている時間が少ない
老中は王となるための教育を学んでいるルシャエントに譲位させることを望んでいた。
そして、王妃にはイヴェンヌを据え、跡継ぎを自分たちの娘の誰かに側妃として生ませる腹積もりだった。
そのルシャエントも隠れて別の女性と愛を育み、王としての教育は何一つ身についていない。
そのことにようやく気付いた老中だが、何もかもが遅すぎた。
王と王妃の我が儘を抑える側妃がおらず、第一王子の愚行を抑えるイヴェンヌがおらず、国としての体裁を失いつつあった。
そのことに王と王妃だけが気づいていない。
側妃とイヴェンヌの帰りを今か今かと待ちわびている老中だけが知るところだ。
上位貴族に至っては王族の血がわずかでも入っている家は次期王の座を狙い、他はどの派閥に入るかを見極めている。
国として権力争いをしているようではすぐに転覆しそうなものだが、そこは側妃の手腕が優れていた。
側妃としては国として最低限機能し、目当ての薬草が輸出できるだけの貿易力があれば良かった。
跡継ぎ問題や権力争いは戦争に発展しなければ放置だった。
側妃という立場は本来、王妃の家格や血筋に跡継ぎを望まない場合や同盟国同士の繋がりを強化するためのものだ。
外交というものは重視されにくい立場のはずだった。
それを自国の王妃が伯爵家令嬢であるということと王が王妃教育を重要と見做さなかったことで例外的に側妃に仕事が回ってきた。
また、ドラノラーマが帝国の姫であったことが災難でもあった。
国力が十分の一程度の王国を牛耳ることなど朝飯前だったからだ。
「そろそろ王の執務が終わるころかしら?」
「左様でございます」
「それでは、わたくしたちは失礼いたしますわ。近日中に完成品のドレスをお持ちしますので、そのときは珍しい宝石をお持ちしますわ」
「それでは、わたくしは大輪の花をお持ちしましょう」
「わたくしは珍しいレース編みのショールをお持ちしますわ」
「皆さま、楽しみにしていますわ。それではご機嫌よう」
優雅に退席をした王妃だが、これが貴族令嬢なら問題ない。
王族である王妃は先に退席してはいけない。
招待客を見送る必要がある。
それを理解していない王妃を誰も敬ってはいない。
王妃という名の道化扱いだ。




