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側妃は隣国の姫で外交のために嫁いできた。
嫁ぐ前から王と王妃のことを知っており、寵愛が欲しかった訳では無いから問題にしなかった。
欲しいのは、この国にしかない薬草の優先的輸入権だ。
そのためになら王が一度も部屋に来ないことくらい何でも無かった。
むしろ来ない方が良かった。
帝国の血を持つ王位継承者など争い事にしかならない。
家臣は側妃の外交手腕を認めており、輸入権の代わりに王族の仕事を手伝って貰っている。
その優秀さから隣国は出戻りさせようとしているが、本人が固辞している。
「イヴェンヌ、ご挨拶を」
「はい、側妃様」
イヴェンヌの王妃教育は側妃が行っていたし、イヴェンヌも側妃には尊敬を持って従っている。
椅子から立ち、挨拶を述べようとしたときだ。
乱暴に扉が開き、そこにはルシャエント王子と豪華に着飾った令嬢がいた。
「間に合った。婚約発表パーティはまだだね」
「ルシャエント様」
「今から僕が婚約発表の挨拶をするからイヴェンヌは降りて良いよ」
「ルシャエント様」
「何だい?今から僕の婚約発表なんだ。邪魔をしないでおくれ」
笑顔でルシャエントはイヴェンヌを卑下した。
そして無自覚にしていて悪気がないという質の悪さだった。
全てにおいて自分が優先されるという考えだ。
さらに言えば、王族は何よりも優先される存在だと本気で信じている。
「今から僕の婚約者であり次期王妃を紹介するのだから邪魔をしないでくれないか」
「わたくしは次期王妃ではないということでございますか?」
「何を言っているんだい?次期王妃は僕の隣にいる彼女だ。何度も同じ説明をさせないでくれ」
自分が考えたことは正しいと思い、そして誰もが賛同すると思っている。
自己中心的なのではなく、周りの意見も取り入れるのが正しいと思えば取り入れる。
苦言を聞くこともする。
だけど、自分で決めたことは変えない。
周りの話を聞くことはするから独断的だと見られないが、独断的だった。
「ルシャエント、なんてことを」
王妃は顔を真っ青にして気を失いかけた。
元伯爵令嬢ではあるが、現王妃だから地位としては、公爵令嬢にきつく言っても咎められることはない。
しかし、王妃自身のことは許されても、伯爵令嬢の息子である第一王子の言動まで許されるかと言えば別の問題だ。
権力図で言えば、第一王子であるルシャエントと公爵令嬢であるイヴェンヌでは優勢なのはイヴェンヌの方だ。
そこで、後ろ盾が弱いルシャエントを次期王にするためにイヴェンヌを婚約者に据え置くように王に打診したのは王妃だ。
ルシャエント自身の継承権だけで言えば、下から数えた方が早い。
王の兄弟の子どもの方が権力としては上位だ。
王妃は現状を正確に理解しており、権力を適切に、かつ最大限に利用していた。
それであるのに、第一王子が公爵令嬢の後ろ盾を蔑ろにして、あまつさえ、側妃として娶るとまで言ったのだ。
貴族を軽視する発言として取られてもおかしくなかった。