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「・・・あら?お茶会のお菓子が新作では無いのね」
「本当ですわね。すぐに作り変えさせます」
昼のうちに届けた招待状を受けた令嬢が来るまで一時間ほどだ。
焼き菓子ともなれば作り変えることは不可能だ。
それを作り変えることが当たり前だと思っている侍女は簡単に下げてしまう。
「本日のお菓子を作った料理人の首を切っておかなければいけませんわね。わたくしが恥をかくところでしたわ」
「王妃様のお茶会を何と心得ているのか。同じ王城に勤めている者として恥ずかしく思います」
「貴女たちは良く勤めていますわ。わたくしが保証します」
「お言葉、ありがとうございます」
王妃のために日陰を作り、冷たい風を送り、お茶会を成功させるためだけに動く。
お菓子を下げた侍女は急いで作らせたものを持って来た。
焼き菓子は無理だったようで、更には透明な飴細工が乗っていた。
食べることが出来るが、お菓子として食べるには大きいため観賞用に近い。
「王妃様、こちらは南国の飾り飴というものでございます。目で見て楽しむお菓子ですわ」
「まぁ、食べないのね」
「飴でございますから召し上がることもできます。南国の結婚式では最後に崩して招待客に振る舞うそうですわ」
「では最後に令嬢方にお包みして」
「かしこまりました」
南国の結婚式で最後に飴を振る舞うのは間違っていない。
だが、お茶会クラスでそれをすると顰蹙を買う。
結婚した二人が飴のように甘い未来を歩んでいけるようにと願い、招待客へは甘い生活のお裾分けという意味が込められている。
結婚式のときだけの縁起物だ。
お菓子もお茶も料理も自分が望めば待たずに出てくると思っている王妃への料理人たちからの皮肉だ。
普通は南国の文化だと説明されれば気付く。
これが結婚式だけにしか出てこないお菓子で、皮肉だということに。
「それで新作のお菓子はどうなっているの?」
「それが新作用の型が出来ていないとのことで、本日はお出しできないとのことです」
「何ですって。わたくしのお茶会に間に合わないとは言語道断です。すぐに間に合わせなさい。あと三十分もしないうちに来られます。出来なければ首だと伝えなさい」
「すぐに伝えて参ります」
侍女は王妃の機嫌を取るだけだ。
それが理不尽なことであろうが侍女には関係が無かった。
これで料理人が首になろうが問題なかった。
料理人も侍女も首になって変わった人数は百人を超える。
普通は問題になるが王妃のために良質な使用人を雇うのは必須と王が名言しているため泣き寝入りになった。
王妃付きになるには爵位が必要であるから首になっても生活には困らない。
適当な嫁ぎ先で跡継ぎを産めば完了だ。
爵位は下げなければいけないが王城に勤めたというステータスが良縁を結んでくれる。
料理人は総じて庶民であり人数を王妃が把握しているとは到底思えないから首にしたという報告だけを挙げていた。
書類だけは作成して、名前を変えて働き続けていた。
「わたくしが寛容なことを申せば、わたくしが軽んじられてしまったようですわね」
「王妃様の御心を理解せぬ者が悪いのです」
「そろそろ皆様がいらっしゃる時間ですわね」
「お召し上がるお菓子は出来立てをお持ちします」




