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「差し出がましいようですが、フルコースで召し上がっていらっしゃるイヴェンヌ様には難しいかと思います」


「何か良い方法は無いか?」


「昼のようにヒュードリック様がされてはいかがでございますか?おそらくは夕食の準備にわたくしも呼ばれてしまうでしょうから」


「そうだな。それが最善か」


「はい、イヴェンヌ様付きのマリーは大根の桂剥きが上手であるということから料理長から解放されておりませんので」


イヴェンヌの朝食のあとのデザートを取りに行ったきり帰って来ていない。


代わりについたのはイリーダだ。


たかが桂剥き、されど桂剥き。


料理人でも桂剥きができるものは限られている。


「それまでは書物庫で休憩するか」


「それでは椅子を用意します。イヴェンヌ様」


「何かしら?」


「お召し物は着替えられますか?」


「夕食の前に着替えても良いかしら?」


「よろしゅうございます。お声をかけさせていただきますので、お寛ぎください」


書物庫に入ると年代ごとや分類ごとに分けられている。


さらには歴史書や娯楽書という形で部屋まで区切られている。


今は本しか無いが誰かが住んでいたのではないかと思うくらいに庫というより家に近かった。


ソファだけでなくベッドもあり、囲炉裏もある。


確実に住めるくらいには設備が整っている。


「ここが小説などを置いている部屋だな」


「部屋で分かれているのですね」


「趣味で集めた本を入れる部屋だからな。うっかり帝国史と一緒にされては大変だからな」


「それは大変ですわね」


帝国の本だけでなく、王国を含め、他国の本も一緒になっている。


言語がバラバラだから全部読むのは大変だが、知っている言語だけでも結構な冊数がある。


選ぶだけでも楽しい。


イヴェンヌの自由にさせることにしてヒュードリックは手近な本を選んで先に読み始める。


選んだのは普段読まない恋愛小説だったらしく慣れない話の展開に苦労する。


方やイヴェンヌは好みの話を見つけたのか楽しそうに読み始めた。


驚異の集中力を見せてイヴェンヌは読み切った。


ヒュードリックは適当にページを飛ばして読み、結末にたどり着いた。


「どうだった?」


「とても楽しかったですわ。主人公が継母を断罪するところなど手に汗握りましたわ」


「そうか」


チラリと見えた題名は、灰被り姫。


有名なおとぎ話で知らぬ者はいないという内容だが、何か違うと思うしかないヒュードリックだった。


すっかり冷めてしまったお茶を飲み、ヒュードリックは次の本を選ぶイヴェンヌを微笑ましく見守った。


王国にいるときは自分で何かを選ぶという自由すら無かったことが話の内容から推察される。


帝国にいるときくらいは自由であれば良いと何も言わないことにした。


適当に選ぶことは止めて真剣に吟味することにする。


適当に読み飛ばした本の結末が平民の娘が王妃に成り上がることになるとは思ってもみなかった。


そして、ヒュードリックは知らない。


それを逆転させる、ざまぁと呼ばれる話も。


何となく、イヴェンヌの置かれている状況が話とそっくりだなと思うくらいだ。


ヒュードリックの従妹たちに話せば、もっと細かいことが分かっただろう。


「・・・それにしても静かすぎるな」


真剣に本を選んでいるイヴェンヌの耳に入らなかった。


ならば、と思考の海に潜ることにした。


「昨日、叔母とイヴェンヌ嬢が来てから約一日経った」


早馬で事実確認や弁明などを王の名前で知らせるのが一般的だ。


いくら生家の者が弁明に向かったからといって国同士のつながりなら王が動く必要がある。


王が動かないということは相手国に対して誠意を見せるつもりがないと判断される。


そんな初歩的な外交を忘れる王はいないし、側近が王の名前で体裁を保つというのもある。


だが、そんな動きもないまま時間は過ぎた。


もし、ドラノラーマとイヴェンヌが弁明に向かっているから問題無いと判断しているのなら随分と甘い考えだ。


だが、その恐ろしい考えを本気で信じていたら王国から何もないまま時が過ぎるだろう。


「このまま本気で無かったことにするつもりか?」



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