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「外でテーブルも使わずに食べるのは初めてですわ」


「そうか。クッションに座っていてくれ」


「用意をヒュードリック様がされるのですか?」


「給仕たちが叔母の我が儘に駆り出されていて手が足りない」


「側妃様は何をおっしゃったのですか?」


「久方ぶりの故郷の食事だから品数を増やせと命じたので総出だ」


普段なら料理を運ぶことを仕事にしている者まで洗い物や下拵えに取り掛かっている。


料理の心得のある侍女ですら包丁を握っているのだからどれだけ人手が足りないのかは推して図るべしだ。


そのせいでイヴェンヌの身の回りを世話する侍女も足りずイリーダが唯一となっていた。


イリーダは料理が出来るがイヴェンヌの身の回りを世話するのなら最上の者にということで残された。


「王国で他国の料理を食べた記憶はほとんどありませんもの。仕方ありませんわ」


「普通は外交のために一度は食べるものなのだがな」


「王と王妃は他国の料理をお気に召しませんでしたから」


「好き嫌いだけで献立を決めるのは王族としては問題だ。それよりも食事にしよう」


小皿に少量ずつの食事を取り分けてイヴェンヌに渡す。


いつもなら手掴みで食べるような食事だがナイフとフォークを使った食事しか知らないイヴェンヌのために箸を用意した。


マナーの一環として使ったことはあるが慣れてはいない。


「箸に慣れていなければ手掴みでも良いぞ。本来は手掴みで食べる食事だからな」


「まぁ手掴みはクッキーだけしかしたことがありませんわ」


「外で食べるときはテーブルが無いからな。簡便に食べられるとなれば手掴みが合理的だ」


「では手掴みでいただきますわ」


串に刺さった野菜を口に運んだ。


ほんのりと酢と塩がかかっており野菜の甘味が引き立っていた。


「小皿も用意せずに思い思いに手を伸ばして食べる料理だ」


「それでヒュードリック様は直接召し上がっているのですね」


「もともとマナーを気にせずに食べるものだからな。箸や小皿を使ってはいけないという決まりもない」


次々に小皿に分ける食事はどれも味が異なり食べるのが楽しみだった。


おそらくはこれらの料理をドラノラーマが所望した結果なのだろう。


「どれか気に入ったのはあるか?」


「これが気に入りましたわ」


「あぁ蘇揚げか」


「そあげ?と言いますの?」


蘇とは牛の乳を煮詰めて固めたもので、甘くしてデザートにすることもあるがパン粉を付けて揚げたりもする。


帝国独特の料理を他国で見かけることはまずない。


「あぁ蘇揚げは王国で言えばチーズに近いところがあるな」


「わたくし、チーズがとても好きなのです。でも匂いが苦手と王と王妃はおっしゃるから食べる機会が少なかったのですわ」


「それなら料理長に伝えておこう」


「これも気に入りましたわ」


「煮凝りか」


「これが煮凝りですのね。王国では他国の料理を作れる料理人がいなかったので全て書物の中の話でしたの」


魚や肉を長時間煮詰めて灰汁を丁寧に除き冷まし固めたものだ。


スープなどの液体の料理を持っていけない外では重宝する。


中に具材を入れたものや寒天で固めたものもあるが、それぞれ好みが分かれる。


「気になる料理があれば料理長に伝えると良い。帝国に限らず他の国の料理でも作るぞ」


「それは仕事が増えて大変ではありませんこと?」


「喜んで作るぞ。毎日の献立を考えることほど辛い仕事は無い。食べたいものがあれば必ず申告を。というのが口癖だ」


「まぁ、それで側妃様が急におっしゃっているのですね」


「今日の夜は王国の料理にすると聞いているが、この分だと叔母の一言で帝国の料理になりそうだが大丈夫か」


きっと久方ぶりの帝国料理に舌鼓を打っているが昼食だけで収まるはずがない。


夕食も下手をすれば一週間は逃れられない。


味に慣れない者なら大変なことになる。



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