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「お嬢様?大丈夫でございますか?」
「・・・大丈夫ですわ」
「ではこちらでお召し物を替えさせていただきます」
隣ではすぐに着替えられるように準備されていた。
わざわざ自室や客室に戻る必要が無いということだ。
王国では部屋に衣裳部屋が備え付けられているから別の意味では移動する必要はない。
「ドレスのリボンを外させていただいてもよろしゅうございますか?」
「えぇ、お願いするわ」
「では失礼いたします」
「名前を聞いても良いかしら?」
「はい、わたくしは客室侍女のイリーダと申します」
「イリーダね。わたくしはイヴェンヌ=カレンデュラですわ」
「かしこまりました。イヴェンヌ様とお呼びさせていただきます」
侍女の名前を気にする貴族は少ないからイヴェンヌの問いかけにイリーダは内心驚いていた。
帝国では侍女の名前と顔を一致させることは必須である。
持ち場と異なるところに居たり見かけない侍女がいれば間者である可能性が高いからだ。
無意識にイヴェンヌは王国でも同じことをしていた。
「力を入れさせていただきます」
「えぇ分かったわ」
ドレスと下着も脱がされると絹の襦袢を手早く着せられる。
くびれを作っていたコルセットも外されて帯で締められる。
たかが布を巻いているだけなのにコルセットと変わらない締め付け感があった。
着物の裾は床に広がるようになっていて歩くときには持たなければいけない。
「とても苦しいのね」
「歩くと緩くなって参ります。裾を持ち上げていただき、足は小幅でお願いします」
「ドレスより歩きにくいのね」
「歩くときは殿方が補助することになりますので、あえてという着方になります」
靴もヒールではなく草履で嵩のあるものを履くがそこまですると本格的に歩けなくなるので省略だ。
さらにイヴェンヌが着付けられた型は座敷で座ったままの生活をするものの着付けだ。
歩くためのものではない。
その形の着物を選ぶあたりヒュードリックの思惑が透けて見えるというものだ。
それでも黙っているのは少しだけの同情だ。
ヒュードリックがイヴェンヌに恋心を抱きつつあるのは侍女の目から見ても明らかだが一筋縄ではいかない相手だということでのお情けになる。
「ヒュードリック様」
「終わったか?」
「こちらでよろしゅうございますか?」
「流石だな」
「ありがとうございます」
「イヴェンヌ、よく似合っている」
「おかしくないかしら?」
さり気なく腰に手を回し、優雅に促す。
このあたりは叔母の教育の賜物だろう。
歩く速度も調整し、転ばないように支える。
本当に女性の相手をしたことがないのかと疑うくらいに手慣れていた。
「中庭に案内をしよう。昼食もそこに運ばせよう」
「そのようなこと勝手に決めても良いのですか?」
「料理長が外で食べられるような食事を用意しているさ」
「そうなのですか?」
「そうだろ?イリーダ?」
「はい、本日はイヴェンヌ様に部屋ではなく外で召し上がっていただくつもりで用意しております」
その言葉は本当だったらしく中庭には赤い毛氈が用意され食事も用意されていた。
重箱に簡単に食べられるものが詰められている。




