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「では、これはどうだ?おそらく王国の出方を見るために帝国に長期滞在になるだろう。そうなれば帝国に不慣れな令嬢の相手が必要だ」
「一般的には他国からのお客様を持て成す方がいますわ」
「だがイヴェンヌ嬢は傍系とは言え皇帝の血を引いている。普通の貴族では相手ができない」
「わたくしは気にしませんわ」
「帝国にも面子というものがあるからな」
「分かりました。よろしくお願いします」
帝国には外交で来たことはあるが、王と王妃の監視が強く対談をするだけで日帰りしていた。
生家であるドラノラーマまで滞在が許されなかったのだからイヴェンヌを王国に閉じ込めようとする意図が強すぎた。
イヴェンヌには王妃付きの侍女の監視で皇帝ですら顔を合わせることが出来ず、王国にいるときと同じように男性との接触を禁じられていた。
「骨休めの旅行と思っていれば良いだろう。外交に来ていたのは知っていたが、監視が強すぎて会ったことも無かったからな」
「申し訳ありません」
「イヴェンヌ嬢が謝罪する必要はない。俺も外交からは逃げ回っていたからな」
「あら?そうなんですの?」
「あぁ、外交に来ているのが叔母であるし、顔を出さなくても不敬にはならないからな」
「まぁ」
イヴェンヌの顔に笑みが浮かぶようになった。
今まで溜め込んできたことを話したからだろう。
イヴェンヌとしても気を許せる友人という者も側近もいなかった。
友人という立場の者を吟味して傍に置くことはあるが、他者からの意見でイヴェンヌが婚約者を辞退してしまわないように管理していた。
契約書があるために簡単に辞退することはできないが、素行に影響が出て婚約者に相応しくないと判断されることを嫌ってだ。
同じ公爵家の者は交友を持とうとしたが、令嬢は監視の下でならお茶会をすることはできたが令息はパーティで踊ることすら出来なかった。
「部屋にいても退屈だろう。外庭に見ごろの花がある」
「外庭?窓から見える花とは違いますの?」
「あぁ庭によって花が異なる。客間から見える花は常緑花だからな。冬でも咲いている」
「冬でも?帝国には四季というものがあるのでしたね」
「今は春だからな。花も色とりどりだ」
自然な仕草で椅子から立ち上がらせるとイヴェンヌをエスコートする。
パーティ以外でエスコートされたことのないイヴェンヌは戸惑いながらついて行く。
普通は幼少のころから慣れさせていくものだが男性との接触を禁じられていたのなら慣れていなくて当然だ。
「第一王子以外の殿方にエスコートをしていただくのは初めてですわ」
「そうか。俺も初めてだ」
「とても初めてとは思えませんわ。慣れていらっしゃるご様子ですもの」
「そう思ってもらえるなら叔母の教育が報われたということか」
「側妃様が教えられたのですか?」
「もう一人の叔母の方だ。マナーに厳しくてな」
「ふふ、お会いしてみたいですわ」
「今は他国に嫁いでいるからな。夏の終わりには顔を合わせることが出来るだろう」
どうしても良い家柄に嫁入りさせたい婿入りさせたいという親がマナー教師にと雇いたがった。
流石に皇族であることから個人的に雇うことは出来ないが教室を開くことはしていた。
お墨付きを貰えれば良縁が結べるとあって人気だった。
そのときに手本となるようにとヒュードリックは駆り出された。
他国に嫁ぐとなったときは反対運動が起きたくらいに人気だった。




