3
「マリー」
「はい、お嬢様」
「これは婚約発表パーティなのよね」
「さようでございます」
王へのご機嫌伺いだけのパーティだ。
これに喜ぶのは下位貴族くらいだろう。
「マリー」
「はい、お嬢様」
「このままお開きになることはないかしら?」
「王が挨拶を受けるのに飽きられたらあり得ることかと思われます」
「そうね。あの目立ちたがりの性分だけは直していただきたいものだわ」
周りの家臣が優秀なのだろう。
外交に置いても大きな失敗はしていない。
だが、これでは周りの気苦労が絶えない。
それで公爵令嬢のイヴェンヌが第一王子の婚約者になったのだ。
次期王妃として外交手腕を鍛えられてきた。
王が戦争で不在ともなれば国を守れるようにと教えられてきた。
王と王妃がどれだけ仕事をしていないかは簡単に分かる。
「マリー」
「はい、お嬢様」
「このまま立っていても仕方ありませんわ。入ります」
「かしこまりました」
主の言葉を正確に理解し、マリーは扉を開けた。
扉の開く音で貴族たちが視線を向けるが、何人かは王への謁見中に邪魔をした者を諫めようとしたが、そこに居たのは公爵令嬢だ。
後ろめたい者は視線を外した。
上位貴族は令嬢が一人で立っていることに驚きと不快感を示した。
すべての視線を受け止めてからイヴェンヌは歩き、王の隣の椅子に腰を下ろした。
そこで初めて王は婚約発表パーティであったことを思い出した。
王妃は息子を傍に連れていないことに不快感を表に出した。
何一つとして気付かないフリをしてイヴェンヌは優雅に微笑んだ。
「どうぞ。お続けになってくださいませ」
「いや・・・」
「普段はお声をかけることの出来ない尊い王がいらしていますもの。わたくしにお気遣いは無用ですわ」
場の空気が凍り付いた。
王に媚を売っていた下位貴族は困り果てていた。
続けろと言われても公爵令嬢を差し置くことはできない。
そんな空気を破ったのは王妃だった。
「イヴェンヌ、ルシャエントを伴っていないとはどういうことです?王家との婚約を不服だと言うのですか?」
「わたくしには答えかねますわ」
「そなたの態度だけで十分に不服であると言っているようなものです。王のご決断に異論を示すなど不敬でありますよ。恥を知りなさい」
「では、王妃様にお聞きしたいですわ。ルシャエント様はいずこにいらっしゃるのですか?手紙を送っても返事がない、王宮に会いに伺ってもいらっしゃらない。学園でも王族専用の塔で学ばれて取り次ぎも許されない。わたくしは困りましたのよ」
王妃相手に一歩も引かない対応をした。
王妃は元伯爵令嬢だ。
公爵令嬢とは格というものが違った。
さらに言えば、イヴェンヌは次期王妃だ。
王妃と同等のことは簡単にできるように教育されている。
立場で言えば、王妃の方が上だがイヴェンヌは公爵令嬢である。
そして、王は何が何でもルシャエントとイヴェンヌを結婚させ、ルシャエントを王に据えたい。
イヴェンヌが多少、不遜な物言いをしても婚約破棄にはなりえなかった。
「そなたがルシャエントに不敬な態度を取るからです。王族は簡単に貴族と会うことは出来ない存在です。手紙の返答が無いくらい我慢なさい」
「我慢いたしましたわ、王妃様。でも婚約発表のエスコートに何時に我が家にいらっしゃるのかお聞きすることが不敬に当たるとは不勉強でしたわ。これより気をつけます」
「それくらい常に殊勝な態度でおれば、ルシャエントも歩み寄りを見せるというもの。わたくしが王を支えているように。イヴェンヌ、わたくしを手本になさい」
「そうですわね」
諦めた返事をしたイヴェンヌを誰が責められるか。
そのやり取りを冷めた目で側妃は眺めていた。
やり取りを聞いていた貴族の何人かは王妃の言葉にため息を吐いた。