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客間では朝食を摂り終ったイヴェンヌがお茶を楽しんでいた。


窓から見える異国の花に心躍らせながら。


「王城は忙しいかしら?」


王城が忙しくしていようが対して関心も持っていないが時間潰しに呟いた。


特にすることもないから窓に近づいて花を楽しもうとした。


簡単に開く窓から身を乗り出して鑑賞する。


後宮では切り花しか楽しめなかったから庭に直接咲いている花は珍しかった。


「・・・誰だ?」


「・・・・・・貴方こそ」


王国では身分が下の者が多かったから不躾に尋ねられることはなかった。


思わず年相応の返答をしてしまった。


「・・・俺は、ヒュードリック=ガンディアルニアだ」


「大変失礼いたしました。わたくしはイヴェンヌ=カレンデュラでございます。殿下におかれましては大変・・・」


「年も近いだろう。そう固くなるな。挨拶もいい」


「ご恩情有り難く頂戴申し仕ります」


舌を噛みそうな言葉使いも滑らかに言ってしまうほどにはイヴェンヌは教育が行き届いていた。


ヒュードリックは黙って苦笑した。


「普通に話していい。それでロカルーノ王国第一王子の婚約者が何故帝国にいる?」


「それは、・・・いろいろありましたの」


「そうか」


ヒュードリックは一言呟くと、窓から部屋に入った。


それだけで皇子らしくない行動だった。


「その色々という内容を聞かせてもらえないか?」


「よろしいですわ。長くなりますわよ」


「構わない」


「新しいお茶を用意しますわ」


「・・・・・・その量では渋くなるぞ」


王国で普及しているお茶と違い、一人分ずつしか淹れないらしい。


それだけでも違うのに淹れるお湯の温度まで異なるとなればイヴェンヌにはお手上げだ。


「帝国で飲まれているお茶のことは知っておりましたが、淹れ方まで違うとは思ってもみませんでしたわ」


「淹れ方まで教える教育係はいないからな」


「それでも王国で飲んでいたお茶の淹れ方をわたくしは知りませんわ」


「それも違いだろうな。帝国では一人ですべて熟せるように教育される。そうでなければ人を使うことは出来ないからな」


「王国とはずいぶんと違いますのね」


「それは後で叔母に聞けば良い。それで色々とは?」


ヒュードリックが淹れたお茶で喉を潤してから語りだした。


「わたくしが産まれてすぐに第一王子との婚約が決まりましたわ。第一王子が次期王となるためにです。婚約契約書で結ばれ、わたくしが成人してすぐにでも婚約者だと公式のものにしたかったのですね」


「ということは十五歳か」


「女性の年を確認するのは無粋ですわよ。まだ十四歳です。あと一週間で十五歳になりますが」


「だが、契約書が用意されているのなら今も第一王子の婚約者だろう?」


「そのつもりで昨日、婚約発表パーティが開かれたのですが、第一王子からエスコートもされずドレスも贈られず当日になり別の女性が婚約者だと第一王子から聞かされて大層驚きましたわ」


「当日にか?それこそあり得ないだろう。もし別に愛する女性がいるのなら側妃か愛妾にするのが通例だろう」


「わたくしをお飾りの王妃に据えることすら嫌だったようですわ。遠回しに婚約破棄を申されましたわ」


ヒュードリックが淹れたお茶を飲む。


ほのかな甘みとすぐに消え去る苦味を楽しんでいた。


侍女が淹れたお茶には苦味と渋みだけしか感じられなかった。


「それで帝国に対して弁明という名で入国したということか」


「いくら国内でも当の本人がわたくしを王妃にするつもりがなく側妃にすると宣言されましたもの。無理に王命で夫婦にしたところで諸外国には全て知られてしまっていますわ」


「帝国としては婚姻で同盟が結べるのなら良し、戦争で手に入れるも良しだからな」


「わたくしは産まれたときから第一王子の婚約者で次期王妃の教育を受けて参りましたわ。でも一度もルシャエント様は声をかけてくださいませんでした。笑いかけてもくださらなかったのですよ」


「互いに愛情を持っているのならもちろんだが、政略結婚ならもっと必要なことだな。頑張ったな、イヴェンヌ嬢」


「あっ」


何の前触れもなく涙がこぼれ落ちていく。


今まで耐えてきた弱さが流れ出した。



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