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「何一つ落ち度のない状態での婚約破棄を言い渡されるために、あの子はずっと待ったのです」


「だが、愛人が商会の娘でなければ密会の場を押さえられないだろう」


「お兄様ともあろう者がお気づきではありませんの?愛人が商会の娘でなければ別の手を考えるまでのこと。初社交界(デビュタント)前でなければ庶民の者と気軽に会えませんもの」


王城に庶民を招くという我が儘が辛うじて通る年齢でもあった。


不自然ではあるが王妃という立場になればドレスを仕立てるためであっても庶民と顔を合わせることは難しい。


愛人が貴族の娘ならば社交界で見定めれば良いだけのこと。


むしろイヴェンヌの立場に逆らえる令嬢はほとんどいない。


愛人が侯爵家令嬢以下なら話し合いという警告で片が付く。


公爵家令嬢なら婚約者という立場を交換すれば良い。


恐ろしいまでに策を巡らせたことだろう。


「それで愛人を炙り出したのか」


「先の先まで見越して手を打っていたはずですわ。わたくし以外の誰にも悟られることなく根回しをしたのです」


「そして機は熟した」


「えぇ」


「そこまで準備していても婚姻届けを教会に出されれば婚約破棄も意味をなさないぞ」


「そうですわね。だから、わたくしたちは目立つように王国を出立して来たのですよ。イヴェンヌの策が無駄にならないように」


「・・・それで宣戦布告は待てと言ったのか」


ルシャエントの愛人の存在はイヴェンヌとドラノラーマしか知らない。


ルシャエント自身は愛人ではなく恋人であり婚約者だと本気で思っているから除外する。


婚約破棄となるまで愛人の存在を知らなかった王と王妃は帝国に向かったイヴェンヌが意気消沈していると思っている。


若気の至りだと慰めてイヴェンヌに改めて婚約者であると自覚させようとする。


「王国はイヴェンヌを連れ戻そうと総出で参りますわ。でも第一王子と庶民の娘は自分たちの婚約を認めさせ、庶民の娘を次期王妃とすることに必死になり、帝国でも醜態をさらしてくれることでしょう」


「無理矢理、婚姻届けを出して、国民に報告するには国内外からの批判が大きすぎるということか」


「待ってくださいますか?」


「良いだろう」


「これでイヴェンヌの頑張りも浮かばれますわ」


朝食後の会議はこれで終了した。


消化の悪い話はこれで終わりとなった。


「それで、気になっていたのですけれど」


「何だ?」


「なぜ第一皇子を謁見に同席させなかったのです?」


「痛いところ突いてくるな」


「イヴェンヌとの婚姻を企むのなら同席させていると思ったのですけど間違っているかしら?」


「同席させようとしたが、逃げられた」


朝食が終わっているのに食堂から出てくれないため片づけられないと給仕たちが苛立ち始めた。


使用人が感情を顕わにするのも帝国の特徴とも言える。


それぞれの立場において最善の仕事をすることを心がけている。


だから対等ではあるが、平等ではない。


「陛下、陛下、いつまで食べているんですか?」


「マーロ」


「やや、これは麗しのドラノラーマ様ではありませんか。このマーロ、一生のうちにまたお目見えすることが出来るとは何たる幸運。いつ見てもお美しい、貴女様を称える言葉を持たぬマーロめをお許しください」


自然な流れでドラノラーマの傍に跪くと手の甲に口づけをした。


それを当たり前のように受けるドラノラーマとは往年の恋人のように見える。


「マーロ、奥様はお元気かしら?」


「訃報の知らせは受けておりませんので、元気かと思われます」


「貴方も相変わらずのようね」


「ドラノラーマ様のお声を聞けるなど夢のようでございます」


「本当に相変わらずだわ」


ドラノラーマが少女で、マーロも少年であったころからの付き合いだ。


マーロは皇帝となる者の側近として選ばれ、ドラノラーマとも会話する回数が多かった。



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