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「妹に王妃教育をされたのなら手間が省けるな」
「第一皇子の婚約者とでも考えていますか?」
「あぁそろそろ婚約者を決めないといけないが国内では気に入った奴はいないらしい」
「差し出がましいようですが、側室たちが黙っていないと思います。跡継ぎを産めば正室になれると思って輿入りしていますから」
「だが、誰も子どもを産んでいないし、閨に通われてもいない。この状態が三年も続けば望みは薄いだろ」
側室は婚約期間を設けずに輿入れする。
正室には出来ない身分の者や政略的人質の者や親類で血縁を絶やさないための者などを囲うための身分だ。
跡継ぎを産めば正室になることもあるが、先に正室が居れば側室は側室のままだ。
権力的にも正室の方が重視される。
「ひとつ問題が」
「何だ?」
「ヒュードリック皇子は納得しているのですか?」
「していないな」
「じゃぁ無理じゃないですか」
「していないが、国内に女がいないのなら国外からの女で探すしかないだろ。丁度良く身分もある教養もある容姿もある。何も問題ない」
そんな簡単に事が進むはずないと思いながらも一縷の望みをかけてヒュードリックとイヴェンヌを会わせる算段を企てた。
どうせ皇帝への謁見を望むからそこに同席させれば良い。
あとは若い者同士で会話させれば良い。
たとえ気に入らなくても適当な口実で後宮に入れてしまえば良い。
「さて、そろそろ来るな」
「うん?まだ朝食前ですよ?」
「何を言う。これでも遅いくらいだ。俺は十分に猶予を与えた」
兄妹だなと思うのは、玉座に座って間もなく謁見の申し出がドラノラーマ一行から上がったことだ。
この部分が双子のように一致していて騒がれていた。
当人たちに言わせれば無駄なく効率良く最善の行動をしたら一致するだけということらしい。
「・・・面を上げよ」
「朝の早くに陛下のお時間を賜りましたこと深く感謝の念を述べさせていただきます」
「で、急ぎ戻った理由は?」
「お兄様にお願いがあります」
「言え」
「王国に手を出すのを待っていただきたいのです」
「理由は?」
「わたくしが王から不当な扱いを受けていたというだけでは戦争を仕掛ける理由が弱いのです。諸外国への説明で文句が出ないようにしなければなりません」
ドラノラーマは皇帝陛下の機嫌が下がるのを気にせず説明する。
その姿は側妃という枠では収まらないほどに凛々しいものだ。
「いくら相手が小国であっても、あの国の薬草のために他の国から帝国が攻め入られる理由を与えてしまいます」
「なら侮辱を黙っていろということか?」
「いいえ、時期尚早というだけのことです」
「朝食のあとに詳しく話を聞かせろ」
「分かりましたわ」
嫁ぐまでは住んでいた皇居だ。
食堂の場所は案内をされずとも分かっていた。
むしろ合理性を重んじる帝国でお付きを従えて食堂に向かうなど不可解な行為だ。
そのまま皇帝と連れ立って食堂に向かう。
「それでイヴェンヌはどうした?」
「彼女でしたら客間に居ますわ。連れて来ようと思ったのですけど本人が嫌がったので置いて来ましたわ。呼びましょうか?」
「いや、客間に食事を運ばせよう」
「久しぶりの故郷の食事ですから楽しみですわ」
嫁ぎ先では王と王妃の好みの食事だけしか出されず、さらに側妃が食事に注文をつけることを王妃が許さなかった。
特に嫌いなものがあるわけではなかったが、慣れ親しんだ味から離れるのはなかなか大変だった。




