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ベールの下の顔を見て、王は絶句した。
「父上・・・っ」
「そんなに似ていますか?前ロカルーノ王国国王に」
「はっ」
「四十年前、貴方の父が私の母を手籠めにして生まれたのが私ですよ」
「そっそんな昔のことを今さら持ち込んで何を考えている!?なら何故、そのときに言わん!父のことを持ち出されても、わしには関係ない!」
「そうですね。関係ないですね。何故、今更なのかと言えば、あのときは戦争を仕掛けても負けることが分かっているからですよ。負けると分かっている戦争で民を困窮させるわけにはいかないから泣き寝入りをしたんですよ。今回は、別の理由で参戦しましたけどね」
「それは、なんだ?」
その続きはガンディアルニア帝国の皇帝が引き継いだ。
「妹のマセフィーヌが嫁いで、ウィシャマルク王国は豊かになった。だが問題が起きた。土地が足りなくなってきたんだ」
「土地?」
ロカルーノ国王の疑問に対して、ガンディアルニア帝国の皇帝が答えた。
「あぁ、だが土地を増やすことは難しい。そこでロカルーノ王国に目をつけた。だがな、戦争を仕掛けても勝てる確率は五分五分だ。そこでガンディアルニア帝国が出てくる。俺は戦争がしたいんだ。だけど、ロカルーノ王国は特に目立った特産もないから戦争で勝っても、そのあとの民の生活への賠償で赤字になるだろう?」
薬草は確かに特産と言えるかもしれないが、必要とする人は少ないことで、税収としては期待できなかった。
「そこでウィシャマルク王国がロカルーノ王国を引き受けてくれるという。俺は戦争ができれば良いからな。あとのことは任せることにした。本当は前線に出たかったが仕方ない」
「せ、攻め入ったことを後悔するぞ。薬草が欲しかったのだろう!」
「それは、ちょっと前までだな。今は必要ではない。それに薬草については足元を見たのは、そちらだろう」
「どういうことだ?」
「薬草を輸入したいと言えば、取引のたびに一桁上げた値を請求してきた。払えないわけではないが民の血税を無駄にするわけにはいかないだろう?」
ガンディアルニア帝国の皇帝の言葉に王の後ろに控えていた老中が気づいて息を飲んだ。
「そんなことは指示していない」
「指示していなくとも王の御璽があれば王の言葉になるだろう。だからドラノラーマを側室として送り込み薬草の値段を適正化させた。政務嫌いのお前たちには代わりにしてくれる存在はありがたかったのではないか?」
「こ、この玉座は、渡さんぞ!」
「なら力づくで奪うまでだ。ロカルーノ王国の民も自分たちが食べる明日のパンに困らなければ、上が誰でもいいそうだ」
王の元に皇帝が近づくと力ずくで玉座から降ろした。
抵抗もなく王は転げ落ちた。
「あと、国民には名前を知られていなかったようだぞ。今の国王は誰だということで話題になっていた」
「なっ」
「そのおかげで処刑して欲しいと思えるほどの恨みもないそうだ。良かったな」
「ま、待て。わしが王を退いてもルシャエントがいる!」
「この国の王位継承権は、王族の血を引いた男子に年功序列で与えるものだろう?ならレオハルクにも継承権はあるだろう?王弟たちとその子どもたちは継承権を放棄したぞ」
「だが、王であるわしが次期王であると指名している」
往生際悪く言っているが、ルシャエントが王座につくことは絶望的だ。
ウィシャマルク王国から護送されてくる途中に、なぜか山賊に襲われて右腕をさらに怪我した。
完全に使えなくなり、残った左腕も剣が握れる状態ではない。
「それならそれで良いが、ロカルーノ王国はガンディアルニア帝国とウィシャマルク王国の属国だということは忘れるなよ?」
王と王妃はすぐに幽閉されたが、国民は誰も気にしていない。




