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ダンスホールで立食パーティ形式の歓迎会が開かれた。
ルシャエントとベラには、それぞれ見目麗しい者が入れ替わり立ち替わり話しかけ二人を引き離した。
ときどき視界に入るお互いの姿は相手を口説いている姿だったり、口説かれている姿で面白くないものになる。
反抗心のように声をかけてくる者と親密になり、二人は最終的に別の人と連れ立ってホールを出た。
さすがに学校ということで寮の前で別れたが、自分以外の者と仲良くしていたことは面白くない。
そんな感情のまま顔を合わせていたくないと、険悪なままだった。
「ふん、ずいぶんと仲良くしていたな」
「ルーシャ様だって色目使っていたじゃない」
「お前は僕と婚約しているんだ。他の男と話すな」
「ルーシャ様だってそうでしょ!」
「僕は王族だ。いずれは側室を娶って子をなさなくてはならない。これは王族としての義務だ。そんなことも分からないのか!」
王国で結婚式を挙げていないから、まだ婚約中だと思いこんでいた。
このまま寝るということはできず、ルシャエントは廊下に控えていた護衛に部屋を用意するようにと伝えた。
この護衛は文字通りの護衛ではない。
何か要望が出た時の伝達係だ。
自分勝手に騒ぎ立てる二人が大人しくしているはずがない。
夜分に騒ぎ立てられることほど迷惑なものはない。
「あの女のところにでも行くのね」
「あの女?」
「あの女はあの女よ。言い寄ってた女はたくさんいたわ。そんなにあの女が良いなら彼女と婚約すればいいのよ」
「そうだな。帝国とも繋がりができるし、それなら父上も認めてくださるだろうな」
二人が別れられないということは頭にない。
仲違いしたまま二人は紹介された目当ての人のところへ向かおうとした。
城にいる二人が夜間に出ることは許されず、すぐに見咎められた。
これがルシャエントとベラの夜の散歩というならば、褒められたことではないが、監視付きで叶ったかもしれない。
「僕は王族だぞ。なぜ行動を制限されなくてはならない!」
「ルシャエント様がおっしゃるように王族でいらっしゃいます。そんな高貴な身分の方に何かあっては帝国の威信に関わります。どうぞ今宵は部屋へお戻りください。明日からはご不便なくお過ごしいただけますので、今宵はご容赦を」
「そうか。分かった。ただ、一緒の部屋にしなくていい。ベラと別々の部屋に戻せ。あんな尻軽と一緒の部屋にはいられない。僕の品位に関わるからな」
「では、そのように」
ベラも同じように宥められて別の部屋で眠った。
翌日は険悪なまま二人は登校した。
そんな様子を気にすることなく案内役のシシリィは笑顔でベラをエスコートした。
ルシャエントには別の令嬢が付いた。
「お二人は次期王と次期王妃と聞き及んでおります。ですので、別の教室で学ぶことになります」
「ふん」
顔を合わせなくてもいいと二人は清々したという表情でそれぞれ教室に入った。
ベラを待ち構えていたのは、噂好きの令嬢たちだった。
「皆様、ベラ様とお話できるのを楽しみにしていましたのよ」
「そう」
「えぇだって、帝国の遊女から王国の次期王妃だなんて、夢のような玉の輿ではありませんか」
「えっ?遊女?どういうこと?」
帝国を出発するときに着ていた着物が皇帝の寵妃になった遊女が着ていたものだと誰もが知っている。
今まで誰も着ていないものを着たということは、その遊女の妹分だと知らしめていることになる。
「違うわよ。私は商会の娘だし」
「あぁそういうことになっているのね。でも良いの?せっかく身請けしてくれた旦那を袖にして王子様に嫁ぐなんて」
「でも見初められたのだから仕方ないのではなくて?」
どれだけベラが否定しても遊女であると信じられてしまっている。
詳しく調べれば、ベラが帝国の遊女だった事実はないのだが、そんなことは関係なかった。
ただただ噂話がしたいだけの令嬢たちだ。
「羨ましいわ」
「それで今まで、どんな人が通っていたの?」
好き放題に言われることに我慢が出来なくなってベラは机を大きく叩いた。




