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「口うるさくもなります。王妃様がご懐妊でいらしたときに愛人の家に籠るなど民に知られたら大変なことでしたぞ」
「王であるのだから跡継ぎが多いのが当たり前であろう。それはそうと、アレは元気にしているのか?」
「十分な金貨を与えております」
「そうか。話したら会いたくなったな。馬車を用意しろ」
「それはできません。執務がございます」
王と王妃は相思相愛というのが有名で側妃すら持っていないことに王族の稀な純愛と評判だったが、王には愛人がいたというのだ。
それも会いに行かなければならない身分ということだ。
「王妃も王妃だ。ルシャエントが生まれるまでは暇があればいつでも求めていたというのに今では後宮にいながら夜しか訪れがない。王妃とは王を慰めるのが仕事であろう」
「王様、どこに聞いている者がいるやもしれません。声を抑えてください」
「王であるわしの行動を咎めるのなら家諸共潰せばよかろう。貴族の代わりはいくらでもいる」
「王様」
「しかも子ができぬように薬を飲んでいたというではないか」
「王妃様がでございますか?」
王妃が薬を飲んでいたというのは本当だった。
実家に伝わる体を保つための薬だと言って毎食後に飲んでいた。
「ルシャエントが生まれた後くらいからだな。二人目を望んだわしに跡継ぎの問題が出るから二人目は欲しくないと言っておった」
「王妃様のご実家は多産の家系でいらしましたからね。お一人というのは不思議ではございました」
「飲んでいた薬を王宮薬師に調べさせたのだ」
王妃の実家は多産の家系であるから反対に子どもを産めない薬を服用しないと毎年子どもを妊娠するくらいに妊娠しやすい。
子どもが生まれにくい家系の貴族には愛妾にしたいという声は多い。
高位貴族の愛妾で納得していれば良いものを王妃という分不相応な立場を望むから子どもの継承権が低くなり後ろ盾を必要とした。
犠牲になったのは年が近いという理由で選ばれたイヴェンヌだ。
「それを理由に離縁されればよろしかったではありませんか。もしくは側妃様との間に子を儲けてくださるとか」
「わしとて離縁したかったわ。今では王であるわしに意見をするような女になりよった。昔は慎ましやかなお淑やかな誰もが羨む女であったというのに。だからわしは婚約破棄をして王妃を娶ったというのに」
ルシャエントの婚約破棄をするという恥知らずな行動は父親譲りだったということだ。
婚約破棄をされた令嬢が次の嫁ぎ先が難しくなるということには思い至っていない。
「シャムリーヌ様もお美しかったですが何がお気に召されなかったのでございますか?」
「何を当たり前のことを言っているのだ?年増であったではないか。わしは行き遅れを娶るほど酔狂ではないぞ」
「十二分に適齢期の令嬢であられたかと存じますが?」
「お前の目は節穴か?はぁ父が羨ましい」
今の今まで気づかれていなかったが王の性癖に家臣は気づいた。
無理矢理、関係を迫らなかったというだけが救いではあったが、このままだと必ず問題になる。
「そう言えば、シャムリーヌには弟がいたな」
「ルクルスタ侯爵ですな」
「たしか娘がいたはずだ」
「イヴェンヌ様と同じ年のウィルヘンナ嬢がいらしましたな」
王がシャムリーヌと婚約をした頃は十代だった。
だがいざ婚姻をするとなるとシャムリーヌは二十歳を超えていた。
王は受け入れることができず婚約を破棄し、年下の伯爵家令嬢を迎え入れた。
「城に来て、わしの話し相手になるように連絡をしろ」
「王様、それはさすがに無理でございます」
「良いから呼べ。王の話し相手となれるなど誉れであろう」
意見を翻すことがないと分かった家臣は言われた通りにウィルヘンナを招聘するための手紙を用意することにした。
さすがに傲慢が過ぎるということは家臣には分かっていた。




