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「すぐに箝口令を布き、婚約発表パーティにてルシャエントとイヴェンヌの婚約が成立したと広めよ」
「王様、不可能かと、すでに参加した貴族から伝え聞いた者が増えております」
「では、他国に知れ渡る前に口を噤むよう通達しろ」
「それは難しいですな。貴族にも他国と縁戚の者がおります。いつか知れ渡ります」
「国に不利益なことをする者は全て処刑しろ」
「そんな暴君になられましたら歴史書に載りますぞ」
「それは困る」
始終この調子で会議は進んでいく。
王妃はこの会議に、王を支えるべき側妃が居ないことに黙って腹を立てていた。
「王様」
「どうした?王妃」
「側妃がおりませぬ。このような非常事態に何をしているのか」
「王妃様、側妃様は皇帝に此度のことについて弁明されるとのことで、明日の朝一番に出立のためお休みになられました」
「後宮の女は簡単に外に出てはなりません。ましてや他国などと、あり得ません。王に許可もなく動くなど、側妃としての心構えがありません」
文句を言いに後宮に戻るのだろう。
王妃が建設的な案を出したためしが無いから誰も止めない。
王は王妃として支えてくれていると惚れ直しているくらいだ。
「現実的でないことを話していても仕方ないな。日の出と共に婚約発表について箝口令を布け。今より広がることを防ぐのだ」
「・・・・・・かしこまりました」
箝口令を布くだけなら問題はない。
きっと箝口令が布かれたあとは全貴族の知るところになり、知らぬは庶民だけになるが、第一王子が庶民の娘を婚約者だと触れ回れば泡と化す。
この王国で第一王子の婚約者は公爵家令嬢であると三つの子どもでも知っている。
「それでルシャエントは反省しておるか?」
「食事を差し入れましたところ沈んだ様子であったと報告がありました」
「そうか。今回のことは若気の至りというもの。冷静になれば自ずと理解もしようぞ。次期王になるに相応しいのは我が息子だ。時が経てば笑い話にもなる」
根本的なところで間違っている王の言葉に賛同する者は一人もいない。
婚約者が居ながら他の女性と遊ぶのは目を瞑ることもできる。
時を置いて側妃や妾妃や愛人に出来る。
だが、順番を間違えれば、他国への義理を間違えれば、それは国を傾けることにしかならない。
そこを理解していない王はこれからも理解することはないのだろう。
「明日、カレンデュラ公爵に登城するよう伝えろ。これにて閉幕」
全てをやり切った顔をした王は家臣たちの忙しさを気にすることなく、自室に帰り眠った。