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「どう?」
「ダメだ。窓ははめ殺しだ。一体、僕に何をさせたいんだ」
王族が生活をするには、質素で簡素な部屋であることから長期滞在する部屋でないことに気付いたルシャエントは抜け道を探した。
ベッドの下も壁も天井も窓も虱潰しに探した。
床のタイルも一枚一枚叩いて音を確かめた。
そこまでしても抜け道は存在しなかった。
唯一の出入り口となったドアは鍵がかかり見張りがいる。
そんな部屋だということが分かれば、この部屋の存在意義というものに自ずと気付くはずだった。
王族としての最後のけじめのための部屋だということに。
長期滞在のための部屋でないことに気付いたのは流石だが、意味に気付かないのは無能である印だった。
窓の景色から時間の経過は分かるが正確なことは分からない。
さらに言えば、昼過ぎから始まった婚約発表パーティから何も口にしていないから空腹が近づいていた。
生きるための部屋ではないのだから食料は保管されていない。
「何もないのでは、餓死してしまう。何とか外と連絡を取らないと」
「でも謹慎なら決まった時間に食事が運ばれてくるはずだわ」
「そうだな。今は待とう」
王の子は一人だが、継承権を持つ唯一ではない。
このまま餓死したところで愛人と無理心中したと報告されて終わりだ。
王と王妃の怒りが高い今は何をしても怒りを買うことにしかならない。
待つという判断は最善ではあった。
だが独断で騒動を大きくし自分で自分の次期王の立場を危うくしたルシャエントに挽回の余地は考えにくい。
婚約契約書の効力を持って、強制的に婚約者ひいては次期王妃にされ、寵愛すらも得られないお飾りの王妃になると分かっていて嫁がせたいと思う親はいない。
貴族の中でルシャエントと年が近く、後ろ盾となれるほどの貴族の娘はイヴェンヌを除けば片手で足りてしまう。
そして全員がすでに婚約者がいる。
権力のために婚約者を奪ったとなればルシャエントの王としての資質を疑われることになるから最悪の手段だ。
何をしたか理解していない二人は仲睦まじい様子で語り合う。
「きっと王様、いえ、お義父様も分かってくださるわ」
「そうだな。先に父上と母上に挨拶が必要だったが、婚約発表パーティでイヴェンヌが僕の婚約者だと発表されてしまうと諸外国にも示しが付かなかったからな。乱入するしか手立てが無かった」
「貴方は次期王になるのだから間違っていないわ」
「僕は何としても愛する人と添い遂げて見せるよ」
「ルシャエント様、いえ、ルーシャ様」
「ベラ、愛している」
恋に溺れた二人は謹慎の間にいながらも愛を育む時間にした。
この二人をどうにかして別れさせてルシャエントとイヴェンヌを結婚させようとしている王と王妃は重鎮の前で無理難題を言っていた。