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「ただいま戻りました」


「おかえりなさい、イヴェンヌ」


「側妃様からお母様への伝言です。帰りますとのことです」


「分かりました。ようやく決心されたのですね」


「明朝に発たれるそうです」


「いつでも問題ないようにしていました」


「わたくしも大丈夫です。お母様」


ヘルメニアは穏やかに微笑んだあと、使用人に指示を下した。


騒ぎを聞いて公爵家当主が現れた。


婚約発表パーティの出来事は人伝に聞いている。


イヴェンヌの両親でありながらパーティにはいなかった。


理由は、王と王妃が招待状を持っている者のみ会場に入れるようにと通達したことが全ての発端だ。


第一王子であるルシャエントの親である自分たちが出席するのだからイヴェンヌの両親は娘の婚約発表なのだから来るだろうと考え送っていない。


もちろん会場に行ったが、受付は招待状を持たない者は警護の関係上、何人たりとも通すことが出来ないというルールのもと入れなかった。


そうあのとき、婚約者であるイヴェンヌにまで招待状が送られていたのだ。


「お父様、ただいま戻りました」


「お帰り、だが家族団欒を楽しむだけの時間は無いな。明朝では遅いかもしれぬ」


「どういうことです?旦那様」


「おそらくは日の出と共に王の勅命で箝口令が布かれる。そうなれば国境を越えるのは難しくなる。日の出前に出立しなさい。我が家の馬車は使えんから辻馬車になるが我慢してくれ」


王の性格を熟知しているからこその判断だ。


王が手を回す前に帝国に高跳びしてしまわなければ面倒なことになる。


帝国からの間者が何人もいるなかでの醜態だ。


すでに帝国に知れていると見て間違いはない。


あとは帝国が王国に宣戦布告する前に帝国に入る必要がある。


今の皇帝陛下は使える者ならば他国の間者だろうが平民だろうが気にしないが、求める能力に無い者だと判断すれば身内ですら切り捨てる。


時間との勝負だ。


「旦那様のご判断にお任せしますわ」


「うむ、ではすぐに準備を」


「旦那様、公爵家に嫁いだ身でありながら我が儘を申し・・」


「言うな。私はヘルメニアだから愛したのだ。愛した女を守れないでは万死に値する。気にするな。姉上には男子が三人いる。誰かを養子にすればカレンデュラ公爵家は安泰だ」


万年新婚夫婦だ。


浮気をすることもなく、公爵家当主は帝国から嫁いだ令嬢を本当に大切にしていた。


本人でもなかなか迷う正式な名前を噛まずに何度でも言える人だ。


王城に軟禁状態だったイヴェンヌですら分かるくらいなのだから貴族の中では周知の事実だ。


あわよくば公爵家の庶子を狙って令嬢が愛人の座を獲得しようとしたが、全く相手にされなかった。


「マリー」


「はい、お嬢様」


「荷物をまとめてくれるかしら?」


「すでに完了しております」


「さすがね。今まで仕えてくれてありがとう」


「何を仰っているのですか?私も帝国に参りますよ」


「でも貴女は公爵家の侍女でしょう?」


「旦那様には暇乞いを致しました。マリーはお嬢様の侍女です。死ぬまでお傍でお仕えします」


「そう。わたくしは果報者ね」


「勿体無いお言葉です」


公爵家の使用人はいつか二人が帝国に帰ることを想定して日々過ごしていた。


荷造りに時間をかけずに、そして、主人に不便が起きないように絶え間ない努力をしていた。


「・・・旦那様、わたくしは、わたくしの心は常に旦那様と共にあります」


「わたしもだ。ヘルメニア元気で」


夫婦の別れの儀式を離れたところで見ているイヴェンヌは夫婦のあり方を考察することになった。


愛情を注がれていないと思うことはないが、やはり両親との間に感情の溝がある。


「イヴェンヌ、元気でな。お前の花嫁姿が見られないのが残念だが私はお前の父であることに変わりはない」


「お父様も元気で」


「時間がありません。急ぎ国境を越えます」


「はい、お母様」


出来るだけ乗り心地が良いようにと誂えた辻馬車に乗ると、最短距離で国境へと向かった。


揺れはあるが、体力の温存のために眠ることにする。



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