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「さて、第一王子には困ったものですね」


「そうですわね、側妃様」


「イヴェンヌにも苦労をかけましたね」


「勿体無いお言葉ですわ」


王から第一王子が婚約者であると、王妃教育を受けろと、三歳のときに言われた。


顔合わせも無いまま命令として契約書を見せられた。


契約書とは名ばかりの命令書だった。


それから王妃教育のために王城で生活をすることになるが、王も王妃も顔を見せない。


宛がわれた部屋から一歩も出ることも許されず食事マナーだけを教えられる日々に終止符が打たれたのは側妃様がいたからだ。


毎日のように後宮に通い、いつしか側妃様の隣の部屋に移り、言語学や経済学、帝王学を学んだ。


完璧な公爵令嬢であり、完璧な王妃候補にまでなった。


幼いころに引き離された両親よりも一緒にいた。


両親は何とかして家に戻そうとしたが、王命に阻まれて叶わない。


一年に何度か顔を合わせるのが限界だった。


王も王妃も結婚が出来る年まで王城で飼い殺しにするつもりだったようだ。


そのつもりは全くないままの無自覚の。


軽い気持ちで、次期王妃だから王城で暮らしていれば良いよねという考えだ。


脱走されたりしては困るからと王妃付きの侍女が交代で監視していた。


「わたくしは帝国に戻ろうと思います。兄も何度も帰って来いと手紙が来ますから」


「それは寂しくなりますわね」


「何を言っているのです?貴女も帰るのですよ。イヴェンヌ・ブリシュ・ローリエン・アプロマディナ・ロマディア・コーシェイ・ドゥ・アンシェンボル・ボルキリラ・ガンディアルニア・カレンデュラ」


イヴェンヌは公爵令嬢ではあるが、母親が帝国の皇帝の傍系にあたるため帝国に戻ることが可能だ。


側妃の名前も長い。


正式には、ドラノラーマ・ヘミノッティ・ベルバツァーノ・リエンジ・ゴルドナティリダ・スルツアノカ・ロンル・マルフフェノ・アーメイノダ・ディアスノフスカ・エルメディアノ・ガンディアルニアという。


長いので、誰も呼ばないし、全員が側妃様と呼ぶ。


理由は王がドラノラーマとすら呼ばないからだ。


むしろ名前を知らないのではというのが家臣の中での有力な説だ。


同様に、イヴェンヌも知られていない。


帝国でも最初の名前と家名だけを名乗る。


正式な名前を使うことは一生のうちに数える程度だ。


生まれたときと結婚したときと離縁したときと死んだときだ。


それだけ長い名前にしているのは、名前を知られるということは呪いをかけられるという迷信のもと長い名前は呪い除けのためにつけられる。


本人でも覚えていない者が大半であり、今では形式美になりつつある。


名前にガンディアルニアがあるのだから帝国の流れを組む者だ。


側妃であるドラノラーマが嫁ぐときに話し相手として連れて来たのがイヴェンヌの母だ。


公爵家に嫁いだが政略というより恋愛結婚に近いため家庭内は円満だ。


「カレンデュラ公爵閣下には申し訳ないが、ヘルメニアも連れて帰ることになります」


「そうですわね。お母様だけをこちらに残す訳には参りませんもの」


「帰ろうと決断が出来たのは姉の子どもの病が薬草を頼らずとも良いところまで快復したからなのですよ」


「それはおめでとうございます。皇帝陛下もご安心なされたのではありませんか?」


「えぇ、何分、皇帝陛下にとっても甥っ子ですからね。憂いがひとつ晴れたことは良いことです」


ドラノラーマが嫁いで来た経緯にそう言った内情がかかわっていた。


それをこの国、ロカルーノ王国は分かった上でドラノラーマを側妃とし、皇族の傍系の血を持つイヴェンヌを婚約者にしていた。


そんな内情がなければ国力に十倍もの差がある小国を帝国が相手にするはずがなかった。


そこを王も王妃も忘れていた。


自分たちの子どもを次期王にするための布石にしかしなかった。


皇帝の妹が側妃で、皇帝の傍系の血を持つ者が婚約者で、ゆくゆくは子どもが生まれれば安泰だと考えていた。


「荷造りを、と言っても王国から下賜された物は持っていけませんが」


「側妃様、大丈夫ですわ。王国からいただいた花は全てお返しできるようにしておりますの」


「では、明朝に出立します。あまり時間がかかると関所で止められてしまいますから」


「すぐにお母様と準備いたします」


側妃付きの侍女は最初のころは王国の人間だったが、時間をかけてこっそりと帝国の人間と入れ替わっている。


何も問題がなかった。



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