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二日目

2日目

僕は一人でおつかいに行った帰りに土手のそばを通った。昨日のこともあって、なるべくそこには行きたくなかったのだが、スーパーを出た時に立派な積乱雲が見えて、積乱雲は夕立を起こすと、この前の理科の授業で習ったばかりだったから急いで近道をしていた。

何気なく川の方を見ると、そこには一匹の子犬がいた。しかも何故か川州の中にいる。目が合ってしまった。子犬のつぶらな瞳が僕には助けを求めているように見えた。僕は恐る恐る川岸に降りて行って子犬の方に手を伸ばした。しかし到底届きそうになかったから、川州へ行こうと思った。大丈夫、流れは速いけど足はつく。自分にそう言い聞かせながら川の中に足を入れた。丸い石が川の底にたくさん敷き詰められていて、グラグラしたからバランスを取りながら慎重に進んでいく。あと少しで子犬に手が届く。気が緩んだ瞬間に苔で足が滑って膝をついてしまった。膝まで浸かってしまうと川の流れに流されるのは自明の理である。体勢を立て直す間もないまま身体が下流の方へ流されていく。たが、そこまで深くないから顔も浸からないし、溺れることはない。そう思っていたその時、突如顔に水が絶え間なく流れ込んで来て、息ができなくなった。苦しい。苦しい。苦しい。だんだんと意識が遠のいて来た時、誰かに腕をぐいと掴まれ引き上げられた。引き上げられた僕は腹の中に溜まった水を吐き出した後、引き上げてくれた人の方を見た。浅黒い肌に黄色い歯、かなりの年を重ねたと思われる数が多く、深い皺。その人は昨日話しかけて来た源爺さんであった。とにかく、お礼を言わなければならない。そう思っていると、ポツポツと、雨が降り出した。雨はあっという間に土砂降りになった。

「ウチ来るか?」

源爺さんは低い声で言った。

「でも犬が、」

「犬?こいつのことか?」

子犬は源爺さんの足の後ろにいた。どうやら自力で陸へと戻って来たらしい。

「風邪引くぞ」

本当は学校で知らない人について行ったらダメと言われているけど源爺さんにならついて行ってもいいと思った。

源爺さんの家は橋の下にあった。ブルーシートで囲まれていて、入り口と思われるシートの境目から入ると、中は存外広く、暖かかった。部屋には木箱で作った椅子、テーブル、本棚などがあり、きちんと整理されていた。

「ホームレスの部屋ってもっと汚いと思ってたろ?」

思っていたことをずばり言い当てられて少したじろいだが、

「いえいえ、そんなことないです。」

と、なんとかごまかした。

源爺さんは、ハハッと笑って、体を拭けと、タオルを渡して来た。

「あの、ありがとうございました」

「あぁいいよ。だけどこれからはあんな事はしないようにな。ところで坊主、名前はなんていうんだ?」

「矢田強です」

「強か。いい名前だなぁ。俺は賀来源治っていうんだ。」

「源治さん」僕は覚えるようにそう呟いたら源爺さんは笑って、源爺でいいと言った。だからここにも源爺さんと書いておく。

「強、もうじき暗くなるから、今日は帰れ。」そう言って源爺さんは立ち上がった。

「あの、またここに来てもいいですか?」僕は源爺さんともっと話したかった。

「あぁ、いつでも来い。」源爺さんはそういうとまた、ははっ、と笑った。

中日ドラゴンズの郭源治投手と与田剛投手は関係ありません

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